2016 年 41 巻 p. 13-23
本稿では, 米国の教育心理学者R. E. スレイヴィンの協同学習(cooperative learning)論の検討を行う。まず,米国における協同学習論の展開の中でスレイヴィンがどのような位置づけにあるかを検討することで,次のことが明らかとなった。すなわち,米国の社会心理学の系譜の中でD. W. ジョンソンが提起した協同学習論が,高度な専門性を要求していたことを問題視し,一定の手順に則れば協同学習を実践できるとして技法の開発を試みる動向の中に,スレイヴィンは位置づけられる。中でも彼は,協同学習によって授業を根本から変革することを目指していた。
続いて彼の協同学習論の内実とその展開に検討を加えた。スレイヴィンは,協同学習の技法を開発していく中で,教科内容・カリキュラムを内包した包括的な技法を創り上げた。その実践に教師間協同が必要であるという課題に直面すると,次第に協同学習を核として学校全体を改革するモデルの開発に重点を移していく。最終的に開発されたSuccess for All は,学年をまたいだ二重のクラス編成,チュータリング,家庭支援のためのチームといった要素を含み持つものであった。以上のことから,スレイヴィンが,単なる技法としてではなく,学校全体を貫く理念として協同学習を捉え,展開してきたということが明らかとなった。一方で,グループで子どもたちが励まし合い,助け合うという見方,およびそれを指導に有効活用するという視点が次第に後退していることも指摘された。