教育方法学研究
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研究論文
学校教育における承認の可能性
― K. ストヤノフの人間形成論を手がかりに ―
松田 充
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2023 年 48 巻 p. 1-12

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抄録

本稿の目的は,ストヤノフの承認論に基づく人間形成論と学校教育の構想を検討することによって,学校教育における承認の可能性を明らかにすることである。学校教育において承認の問題が取り上げられる際,学校の中で差異や多様性をいかに尊重するのかが課題とされる一方で,承認を得ることそれ自体に人間形成的な意義がある点は見過ごされてきている。それに対して,ストヤノフは,ホネットが提起した承認概念を人間形成論として再構成することを試みている。その際のストヤノフの特徴は,一方では,人間形成を自己と世界の相互作用と捉えたうえで,その相互作用を駆動させるための原動力として承認を位置づけること,他方では,人間形成論から見た承認論の不十分さとして,承認論の中に「世界」が位置づけられていないことを指摘し,他者や文化といった視点を承認論に取り入れることを提案する点にある。さらにストヤノフは,このような承認論に基づく人間形成論を,「討議志向の教授」という教師の教育学的行為の水準と,「インクルーシブな総合制学校」という制度としての学校の水準において具体化している。本稿では,ストヤノフの人間形成論と学校教育の構想を検討することによって,学習者の差異や多様性といった存在の次元への承認だけではなく,発達の可能性への承認が重要であること,そして承認が教育内容や教育方法を構成する原理となりうることを明らかにした。

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