抄録
物性系の論文や講演の導入部で「こういった系は最近では冷却原子系で実現できるようになっている」といった文言を目にしたり耳にしたりしたことはないだろうか?人工量子系のなかでも量子多体系を扱うことができる冷却原子系は、物性物理の量子シミュレーションプラットフォームとして多様な研究が進められてきた。理想的な孤立量子系であるということが魅力であったはずの冷却原子系だったが、最近ではその高い制御性を活かして人工的に散逸や観測の効果を導入することで開放量子多体系の量子シミュレーションができることが明らかになり、この点でも注目が集まっている。さらに近年、冷却原子型量子コンピュータプラットフォームが、量子コンピュータハードウエアの有力候補として存在感を増してきているという。本集中ゼミでは、冷却原子系とは何か?何ができて何ができないのか?物性物理や量子情報の道に足を踏み入れた私たち学生は、どこまで冷却原子系について知っておいた方がいいのか?冷却原子を用いた量子シミュレーション(特に開放量子多体系)と量子コンピュータ開発の両方に携わってきた実験屋の立場から、これらの疑問を解決したい。特に、冷却原子を用いた開放量子多体系の量子シミュレーション、そしてリュードベリ原子を用いたスピン系の量子シミュレーションと量子コンピューティングについて最新の研究を紹介するとともにその物理を理解することを目指す。