物性若手夏の学校テキスト
Online ISSN : 2758-2159
最新号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
  • 小野 頌太
    p. 1-24
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    無機結晶構造データベース(Inorganic Crystal Structure Database, ICSD)には現在約 28万種類もの物質が登録されており、さらに毎年 1 万種類程度の新たな物質がデータベースに追加され、物質の多様化が進行している。近年では、物質のハミルトニアンを出発点とする「第一原理的な計算手法」を用いることで、実験的に合成されていない仮想物質の安定性や電子物性を予測することができるようになり、その多様化に拍車がかかっている。2004 年には層状物質であるグラファイトから単層グラフェンが剥離できることが報告され、「原子層構造」が結晶構造の一つに加わった。第一原理計算を用いた研究によると、数千種類の原子層物質が層状物質から剥離できると予測されている。一方、非層状物質の原子層が存在することも知られており、3次元構造と2次元構造の安定性相関の解明が望まれている。 本講義ノートでは、計算物質科学の手法に基づく物質予測の方法を説明し、原子層(2 次元物質)への適用例を紹介する。1章では密度汎関数理論に基づくエネルギー計算の手法を説明し、2 章では格子力学の基礎と密度汎関数摂動論に基づく力定数計算を説明する。3章では、様々な計算物質データベースについて概観しその特徴を把握する。特に、原子層物質に関するデータベースの現状を概観し、既存のデータベースには登録されていない「非層状物質の原子層」の安定性について考察する。
  • 塩崎 謙
    p. 25-47
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    本講義では,トポロジカル絶縁体とは,対称性を満たしつつかつ指数関数的に局在するWannier状態を構成できないようなBloch波動関数である,という観点から解説します.まず講義の前半で指数関数的に局在するWannier状態の構成における障害としてChern数を導入します.次に,Wannier状態の構成における対称性の役割を調べるために物理的に重要な対称性である時間反転対称性を取り上げます.さらに,結晶対称性の例として,空間反転対称性と Wannier 状態の関係について調べます.結晶対称性が導入されることで現れる絶縁体のクラスとして,「脆いトポロジカル絶縁体」と「高次トポロジカル絶縁体」について紹介します.時間が許す限り,結晶対称性とトポロジカルバンド理論の関係についても解説します.
  • 北川 俊作
    p. 48-62
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)は原子核を用いて電子状態を調べる測定手法である。 大きな設備を必要とせず、 電子状態や結晶構造などを微視的に調べることができることから、 医療や生物、 化学など広い分野で活用されている。 固体物性の研究においてもNMRは重要な役割を果たしている。 例えば、 NMRスペクトルの形状からは磁気秩序状態などの秩序変数を同定することが可能である。 また、 核スピン-格子緩和率の測定を通じて磁気ゆらぎなど系の動的な性質の情報を得ることもできる。 NMRが物性研究で最も活躍する場の1つとして超伝導研究がある。超伝導の性質を調べるうえで、 スピン磁化率の測定は重要であるが、 通常の磁化測定ではマイスナー効果による大きな反磁性によって測定が困難である。 一方、 NMR測定では原子核と電子スピンとの強い結合によってスピン磁化率の測定が可能になる。 NMR測定を用いることで、超伝導電子対(クーパー対)が一重項か三重項かの判別や、 スピン磁化率の空間分布の情報を得ることが可能になる。 また、 スピン三重項超伝導体においては、 スピンの自由度に起因して、 磁場印加によって超伝導スピンが偏極することが理論的に提案されており、 最近では実験でも観測に成功している。本講義では、NMRの原理や基礎的な内容を概説した後、 超伝導研究への適用例について我々が最近行った実験結果を中心に紹介する。
  • 波多野 恭弘
    p. 63-82
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    物理学では「力」が根本的な役割を果たしています。本講義では私たちが日常的に体験している力として摩擦力を考えます。身近な力であるにも関わらず、実は私たちは摩擦についてそれほど多くを知っているわけではありません。例えば中学高校では「摩擦力には静止摩擦力と動摩擦力があって・・」というように学んだと思いますが、「静止摩擦力」という概念は実はそれほど厳密なものではなく、静止時間や計測方法や実験状況などに依存して変わってしまう複雑な力です。また、静止摩擦と動摩擦は不連続的ではなく、すべりとともに連続的に移り変わります。 本講義では、まず摩擦力に関する中高以来の皆さんの知識を最先端のものにアップデートします。その上で、物質の多様性に惑わされないよう摩擦力を統一的に理解する試みについて解説します。摩 擦は固体間の界面に働くだけではなく、粉体など厚みがある物体にも働きますが、これらは同じように理解できるのでしょうか?ゴムなどの柔らかい物質の摩擦は、硬い物質の摩擦と何か違いがあるのでしょうか?摩擦は物体を滑らせる際に仕事が摩擦熱に変わる過程ですから典型的な非平衡現象ですが、非平衡統計力学や非平衡熱力学の観点から摩擦を理解できるでしょうか?地震は巨大スケールの摩擦現象ですが、実験室スケールでの摩擦現象からスケールをまたいで統計力学的に地震を理解できるでしょうか?
  • 笹本 智弘
    p. 83-102
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    1986 年、Kardar, Parisi, Zhang の3人は、界面の成長を記述するランジュバン型方程式を導入した。この KPZ 方程式は、当時多くの界面成長系で広く見られていた非ガウシアン揺らぎを見事に記述し、非平衡系における普遍クラスの代表例を与えるこ ととなった (KPZ 普遍クラス)。 90年代後半には研究の発展はひと段落したが、空間1次元の系に対しては、2000年頃から非対称排他過程 (ASEP) など同じ普遍クラスに属する格子モデルに対する解析が進み、臨界指数のみならず揺らぎの普遍分布や定常時空2点相関関数に対する厳密解が得られ、その性質が精緻に理解できるようになった。さらに2010年にはKPZ方程式そのものに対する厳密解が得られたり、液晶乱流を用いた高精度の実験が行われた。 当初は界面成長のモデルとして導入されたKPZ方程式であったが、近年はその普遍的な揺らぎや相関が、界面成長とは全く関係の無い多くの非平衡多体系に見出され、 関心を集めている。例えば、異常な熱輸送現象を示す非調和バネで繋がれた1次元鎖 の音波モードの相関がKPZ系と同じ相関を示すと予想されている。これは時間発展がニュートンの運動方程式に従い確率的なものではないことを考えると、意外といえるだろう。さらに最近は、ランダムユニタリ時間発展や、ハイゼンベルグスピン鎖といった量子系の長時間における揺らぎや相関にも、KPZ普遍性が現れることが示唆されるなど、その適用範囲は当初の想定を大きく超えて広がっている。 本講義では、KPZ系の基本事項から始めて、普遍揺らぎと相関の詳細な性質、さらには種々の非平衡多体系に現れるKPZ普遍性について解説する。
  • 宇賀神 知紀
    p. 103-122
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    量子論を用いた解析によれば、ブラックホールはホーキング放射と呼ばれる、ほぼ(プランク分布に従う)熱的な放射を出して徐々に質量を失っていくことが知られている(ブラック ホールの蒸発)。ではブラックホール内部に落ちた状態を、外部に出てきたホーキング放射から復元できるだろうか? 本講義ではこの問題を、(一般相対論、超弦理論のテクニックを用いずに)量子情報理論、非平衡物理の知見を活用して解析することを主題とする。ナイーブにブ ラックホール上の場の量子論を用いた解析では、ホーキング放射は完全に熱的である。従って内部に落ちていった状態を、外部から復元することは不可能という結論に至る。しかしこれは量子論のユニタリー性と矛盾する結果であり、何かが間違っている。この問題はブラックホー ルの情報喪失問題と呼ばれ、その発見からほぼ 50 年経った現在でも完全な解決には至っていない。AdS/CFT対応は反ドシッター空間 (anti de Sitter : AdS) 上の量子重力理論が、その境界における重力を含まない(特定の)場の量子論と等価になることを主張する。近年この対応を応用することで、AdSブラックホールの情報喪失問題を, その境界における量子情報理論的なモデルを用いて解析することが可能であることがわかってきた。実際この様な観点から、 ブラックホールの内部の時空構造の正しい記述方法が理解されつつある。本講義ではまず(一般相対論の知識は仮定せず)ブラックホールの物理の基礎の解説から始め、何故ブラックホール内部の構造を理解するために、なぜ量子情報理論が有効であるのかを議論したい。その応用として、ブラックホールに落ちていった状態を復元する量子情報理論的なプロトコルを解析 する。
  • ⻄澤 典彦
    p. 123-132
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    超短パルスファイバレーザーは,小型・安定・持ち運びが可能で,電源さえあればどこでも使用できる実用性に優れた超短パルスレーザー光源である.その安定性や実用性の高さから,光周波数コムの主要な光源の役割を担い,またバイオメディカル等への応用も進められている. ファイバレーザーの研究は,希土類添加ファイバ増幅器の開発に伴って1980年代後半から 初期の研究が進められてきた.その後,2000 年頃に小型なモード同期ファイバレーザーが製品化され,大きな注目を集め,その後,飛躍的に研究・開発,そして製品化が進んできた. また,実用性の高いファイバレーザーの発展によって,超短パルス応用技術の進展が加速されてきた.ファイバレーザーは,現在では最も高い出力が得られるレーザーとなった.また,光ファイバから射出されるビームは空間的な特性や安定性にも優れており,レーザー加工でも主要なレーザーとしての役割を担っている.光計測の分野では2005年にノーベル物理学賞が授与された光周波数コム光源に,主要な光源として活用されている.最近,市場の拡大に伴い,ファイバレーザー用の特殊ファイバデバイスの開発も進み,また,可視域や中赤外域などの新しい波⻑帯の光源の開発も進められている. この集中ゼミでは,筆者が取り組んでいる高機能な超短パルスファイバレーザー光源について,その基礎から最近の研究状況までを,筆者の研究に加えて世界の状況も併せながら講演する.また,高機能超短パルスファイバレーザーのバイオイメージングや光周波数コムなどへの応用展開についても紹介する.
  • 池田 達彦
    p. 133-146
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    周期駆動系の物理が近年再び注目を集めている。高強度レーザーの進展により、原子・分子・物質を時間周期的に強く駆動することが可能になったことが一因である。このような系では複雑な非平衡現象が生じるが、 背後には(近似的)時間周期性が存在する。このため、いわゆるフロケ理論による系統的な解析が可能であり、現象に対する深い洞察を得られる。また逆にこの理論を元にして新奇な物質制御を予言することもできる。本稿では、フロケ理論の予備知識を一切仮定せず、この理論の構造と重要な概念(有効ハミルトニアン、 擬エネルギー、マイクロモーションなど)を、最もシンプルな2準位量子系を例に詳しく解説する。続いてこの理論に立脚して、フロケ・エンジニアリングや高次高調波発生などの非線形光学現象を概説する。最後に、時間周期性が厳密には成り立たない実際の実験にどのようにフロケ理論を適用するかを議論する。本稿では量子系を中心に議論するが、フロケ理論の枠組みは周期駆動下にある斉次一階線形微分方程式系に適用可能であり、いくつかの古典系にも適用可能である。
  • 車地 崇
    p. 147-161
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    物性物理の対象となる物質は組成や結晶構造、そこから生み出される物性が多種多様である。物質の詳細に立ち入らずに特異な物性の発現を決定づける要因を探し当てる有力なアプローチが、本ノートの主題となる対称性の観点である。強磁性・強誘電性を代表例とする時空間反転対称性に基づいた物質の分類からはじめ、その適用例としてらせん磁性体・マルチフェロイクス・磁気スキルミオンなどを取り上げ、近年の物性物理のトピックを理解するための基礎概念をまとめた。まず物質を対称性に関して 8 種類に分類する方法を紹介し、これをもとに物質の対称性と応答との関係を議論する。つぎに磁気モーメントの長周期構造が空間反転対称性を破る例としてらせん磁性体について紹介する。そして対称性の破れとマルチフェロイック物性との密接な関係を解説する。また磁気スキルミオンというスピンの渦巻き構造をとるトポロジカルな磁性体を概観し、多彩なスピン構造をもたらす対称性の原理を見ていく。スキルミオンをはじめとした特異な磁気構造を検知する手法として電気・熱ホール効果測定を議論する。最後にケーススタディとして著者が実際に新規物質を探索した際の対称性の観点の扱い方、候補物質の設計手順について紹介する。
  • 姫岡 優介
    p. 162-183
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    「生きている」システムおいて広く成り立つ法則にはどのようなものがあるのだろうか。物理学が伝統的にターゲットとしてきた系とは異なり、生命システムは多種多様な構成要素が非線形に絡み合い、幅広い時間スケールが相互作用し、さらに千差万別の姿形を持つ、いわゆる「複雑系」の最たるものである。多様な生命システムに通底する法則を見出すことが、「システム生物学」や「普遍生物学」と呼ばれる若い学問領域が目指すもののひとつである。 本集中ゼミでは、増殖している単細胞微生物において成立する細胞のマクロ現象論的法則や、ミクロ状態の予測手法について概説する。具体的には、細胞の自己増殖能を担う分子の濃度が、多くの環境条件で細胞の成長速度と相関するという実験事実の紹介とその数理的な導出、最適化理論に基づいた細胞代謝状態の予測手法などを解説する。加えて、実験事実としては知られているが数理的な導出がまだ成功していない現象論的法則もいくつか紹介する。 最後に、上述したマクロ現象論が成立するためには細胞の「増えている」ことが極めて重要であるという理論研究を紹介し、細胞が増えてない状態ではこれらの法則がどのように破れるのかを解説する。細胞が増殖を止めた「休眠相」や死にゆく「死滅相」で実験的に見つかった法則についても、時間の許す限り議論したい。
  • 川﨑 猛史
    p. 184-192
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    非晶質固体とは,液体のように粒子構造が乱れたままダイナミクスが凍結した広義の固体と定義される.その中で,原子・分子・コロイドなど,熱運動する粒子系における非晶質固体を(構造)ガラスという.液体からガラスへの状態遷移であるガラス転移現象は,一見顕著な構造変化がみられないのにも関わらず,急激な緩和のスローダウンが観測されるもので,その転移機構は明らかとされていない.非晶質固体は必ずしも熱的な系にとどまらず,非熱的な粉体系や自己駆動する細胞集団系などもその部類に当てはまる.このような系においては,ガラス転移と類似したジャミング転移と呼ばれる非平衡相転移現象が広く観測される.ガラス転移とジャミング転移は混同されることが多かったが,現在では質的に異なるものであることが明らかとなっている.加えて,これらの系に大変形を加えると降伏が起こり粒子が流動するようになる.ここでは粒子軌道の可逆性や応力などミクロ・マクロな量に,相転移としての振る舞いが観測され,非晶質固体の性質を理解する上で重要である.このように,非晶質固体系には,ガラス転移,ジャミング転移,降伏転移,可逆・不可逆転移といった【転移】の名を冠した現象が多く存在し,物理学の観点から研究が活発に行われていることが分かる.本集中ゼミでは,非晶質固体研究に必要な液体論や非平衡統計力学の基礎を導入し,その後,近年の研究の進展について整理・概観する.
  • 濱崎 立資
    p. 193-218
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    平衡状態から遠く離れた系における統計力学の解明は、多彩な非平衡現象の統一的理解のために不可欠な未解決問題である。近年、冷却原子系をはじめとする人工量子系を用いて、量子多体系の非平衡状態を観測・制御する技術が発展した。これに触発され、ミクロな量子力学から非平衡統計力学を解明しようとする機運が高まっている。特に最近では、外界からの散逸を制御したり、所望の測定を行なったりすることさえも可能になっており、こうした開放量子多体系の非平衡ダイナミクスに関する研究が理論・実験両面で盛んになされている。 このような背景のもと、本集中ゼミでは、開放量子多体系の非平衡統計力学に関する基本的な事項と最近の進展について述べる。まず、測定下における量子多体系を実効的に記述する方程式(CPTP写像やLindblad方程式)を導出する。次に、これらの方程式に現れる超演算子をスペクトル分解し、得られる固有値や固有モードの意味を解説する。さらに、こうしたスペクトル分解により、緩和の時間スケールや量子コヒーレンスのダイナミクス、開放量子多体系における「量子カオス」などを議論できることを、最近の我々の研究も交えながら紹介する。時間があれば、測定結果に応じた開放量子系の記述、例えば非エルミートダイナミクスや量子トラジェクトリーのダイナミクスについても、近年の発展を踏まえつつ紹介したい。
  • 岩井 伸一郎
    p. 219-229
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    近年の超短パルスレーザー技術の発展は、電子温度の上昇に隠されていた物質の光励起の「内側」をもあらわにしつつある。わずか数フェムト秒(1 フェムト秒=千兆分の 1 秒)に集中した~V/Åにも及ぶ瞬時電場振幅は、「ペタ(千兆)ヘルツ」という(現在のエレクトロニクスに比べれば)とてつもない高周波数で駆動される新たな光エレクトロニクスを創成しつつある。こうした研究は、主にバンド絶縁体やグラフェン、ナノ金属などで進められているが、電子の多体効果が顕著な強相関電子系では、一電子描像を超えた光強電場効果も予想される。電子間クーロン反発のエネルギーが >1 eV であることを考えれば、こうした極短時間のアプローチが、相関電子の本質に迫り、その潜在能力を活かすための突破口になる可能性も期待できる。一般に、光パルスの照射は瞬時に物質の電子温度を上昇させ、強相関物質の特徴的な秩序状態を熱的に壊してしまう。仮に電子温度が上昇する前に光電場の印加を完了したとすると何が見えてくるのだろう?この集中ゼミでは、有機超伝導体や量子スピン液体などの強相関物質を舞台とする、超短時間(電子間散乱時間の内側)の"無散乱タイムウインドウ"における電子ダイナミクスについて議論したい。
  • 初貝 安弘
    p. 230-239
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    電磁気学の点電荷は基本的ですが、点磁化(単磁極)は未だ観測されていません。しかし理論的には、その存在は何ら否定されるものではなく、ディラックによると素電荷と ”素磁化 ”の積はプランク定数の整数倍に量子化するとされます。この量子化の起源はゲージ場としての電磁場が量子力学に従う波動関数にもたらす位相の幾何学的な拘束条件にあって、このような位相を広く幾何学的位相といいます。最もよく知られた幾何学的位相は周期的な断熱過程に伴うベリー位相で対応するゲージ場をベリー接続といいます。このゲージ場は電磁場とは違って直接の観測量ではなく、量子論に限らず自然界に広く存在するにもかかわらずその意義が認識されていませ んでした。このベリー接続で表されるザック位相やチャーン数も広義の幾何学的位相です。特に離散的な値しかとらない(量子化する)幾何学的位相は、近年広く興味を持たれているトポロジカル相のトポロジカル秩序変数として、系の境界で実験的に観測される局在状態の存在を予言します。この関係がバルクエッジ対応です。講演では、最初にディラック単磁極とベリー接続についてわかりやすく説明します。その後、ベリー接続がバルクエッジ対応を通して支配する現象を広く紹介します。量子(スピン)ホール効果、フォトニック結晶や細胞で観測される一方向のみの流れ、ワイル半金属のフェルミアーク、エルニーニョ現象、等々がその例です。ベリー接続の ディラック単磁極は、これら多様な現象すべての源泉で、バルクエッジ対応を通して自然界に広く実在するのです。
  • 橋坂 昌幸
    p. 240-250
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    バルク-エッジ対応により、エネルギーギャップを持つ 2 次元系のトポロジカル秩序は、試料端におけるギャップレスなエッジ励起の物理として表出する。一般に絶縁性のバルク物性を電気的に調べることは困難であるため、2 次元物質のトポロジカル秩序は、しばしばエッジ状態の輸送特性を通じて評価される。この手法の成功例は、例えば典型的な 2 次元トポロジカル系である整数量子 Hall 系の様々な実験に見ることができる。一方で、エッジ状態そのものはエネルギーギャップによって保護されていないため、Coulomb 相互作用や電荷散乱によって輸送特性が変化する場合があり、エッジ輸送の観測結果が常にバルクのトポロジカル秩序を直接反映するとは限らない。これは、2 次元トポロジカル絶縁体の量子化電気伝導度の観測が容易でないことからも明らかである。しかし、もし Coulomb 相互作用や電荷散乱を考慮に入れたうえでエッジ輸送特性を測定・解析することができれば、バルクのトポロジカル秩序を評価することが改めて可能になる。例えば最近では、占有率 5/2 分数量子 Hall 系エッジ状態の電気伝導度と熱伝導度の解析により、5/2 状態が非可換統計に従う準粒子(非可換エニオン)を発現するトポロジカル秩序を持つことが確かめられている。このように、エッジを通してバルクを見るためには、Coulomb 相互作用や電荷散乱を反映したエッジ状態のダイナミクスを知ることが不可欠なのである。本稿では、量子 Hall 系で確立されてきたエッジ状態のダイナミクス研究を俯瞰し、特に占有率 2/3 分数量子 Hall 状態を例として、そのトポロジカル秩序がエッジ輸送にどのように表れるかを解説する。
  • 山口 哲生
    p. 251-258
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    物質の機能は,多くの場合,そのかたちとの間に強い相関がある.この集中ゼミでは,植物を例にとり,構造と力学的性質について議論する.具体的には, 植物の葉,枝,幹(茎)の静的・動的力学特性 植物の根と土壌との力学的相互作用 木材の微細構造と力学的異方性 といった問題に対して,スレンダー構造,分岐構造,セル構造,粉体,静力学,振動・緩和,破壊などの視点から物理学的な特徴を述べ,生物学的,工学的,農学的な意義を紹介する.また,モデル実験系の構築,力学実験,可視化,理論モデル化,数値解析など,メカニズム解明のための統合的アプローチに関する解説を試みる. 3時間にわたる講演は,ぶっ続けだと講演者は疲れるし聴衆も飽きる.化学,物理学,機械工学,農学の分野で研究活動を行った経験を踏まえ,講演のところどころで「異分野でポジションを得る方法」「おいしい問題の見つけ方」「融合研究の重要性」について雑談する予定である.
  • 川口 喬吾
    p. 259-266
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    分子集団から個体の群れ運動まで、多数の要素が集まって起こる非平衡現象は生物系の中に無数の例があるが、これらを統一的に理解することはほぼ不可能である。という諦めから出発しつつも、非平衡物理や統計物理から多少なりとも役立つ枠組みを引っ張ってこれないかと踏ん張るのも一つの研究姿勢であり、例えば昨今よく耳にするアクティブマターの物理に期待を寄せるのも無理なからぬことである。アクティブマターとは、自発運動する要素が寄り集まったときに生じるマクロな現象について調べる分野であるが、その対象例として鳥や魚の群れなどがよく引き合いに出されるものの、実際の生物の群れ現象の理解に役立てられている研究はかなり少ない。むしろ生物系が非平衡物理の実験場として果たしてきた役割は大きく、理論の実証やインスピレーションの源として生体物質を使った実験が貢献してきたというのが実態である。本講義では、これまでのアクティブマターと生命現象の接点における研究例について、トポロジーをキーワードにいくつか説明し、また今後の展望について話す。
  • 富田 隆文
    p. 267-285
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
    物性系の論文や講演の導入部で「こういった系は最近では冷却原子系で実現できるようになっている」といった文言を目にしたり耳にしたりしたことはないだろうか?人工量子系のなかでも量子多体系を扱うことができる冷却原子系は、物性物理の量子シミュレーションプラットフォームとして多様な研究が進められてきた。理想的な孤立量子系であるということが魅力であったはずの冷却原子系だったが、最近ではその高い制御性を活かして人工的に散逸や観測の効果を導入することで開放量子多体系の量子シミュレーションができることが明らかになり、この点でも注目が集まっている。さらに近年、冷却原子型量子コンピュータプラットフォームが、量子コンピュータハードウエアの有力候補として存在感を増してきているという。本集中ゼミでは、冷却原子系とは何か?何ができて何ができないのか?物性物理や量子情報の道に足を踏み入れた私たち学生は、どこまで冷却原子系について知っておいた方がいいのか?冷却原子を用いた量子シミュレーション(特に開放量子多体系)と量子コンピュータ開発の両方に携わってきた実験屋の立場から、これらの疑問を解決したい。特に、冷却原子を用いた開放量子多体系の量子シミュレーション、そしてリュードベリ原子を用いたスピン系の量子シミュレーションと量子コンピューティングについて最新の研究を紹介するとともにその物理を理解することを目指す。
  • 物性若手夏の学校準備局
    p. 286
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー
feedback
Top