1986 年、Kardar, Parisi, Zhang の3人は、界面の成長を記述するランジュバン型方程式を導入した。この KPZ 方程式は、当時多くの界面成長系で広く見られていた非ガウシアン揺らぎを見事に記述し、非平衡系における普遍クラスの代表例を与えるこ ととなった (KPZ 普遍クラス)。
90年代後半には研究の発展はひと段落したが、空間1次元の系に対しては、2000年頃から非対称排他過程 (ASEP) など同じ普遍クラスに属する格子モデルに対する解析が進み、臨界指数のみならず揺らぎの普遍分布や定常時空2点相関関数に対する厳密解が得られ、その性質が精緻に理解できるようになった。さらに2010年にはKPZ方程式そのものに対する厳密解が得られたり、液晶乱流を用いた高精度の実験が行われた。
当初は界面成長のモデルとして導入されたKPZ方程式であったが、近年はその普遍的な揺らぎや相関が、界面成長とは全く関係の無い多くの非平衡多体系に見出され、 関心を集めている。例えば、異常な熱輸送現象を示す非調和バネで繋がれた1次元鎖 の音波モードの相関がKPZ系と同じ相関を示すと予想されている。これは時間発展がニュートンの運動方程式に従い確率的なものではないことを考えると、意外といえるだろう。さらに最近は、ランダムユニタリ時間発展や、ハイゼンベルグスピン鎖といった量子系の長時間における揺らぎや相関にも、KPZ普遍性が現れることが示唆されるなど、その適用範囲は当初の想定を大きく超えて広がっている。
本講義では、KPZ系の基本事項から始めて、普遍揺らぎと相関の詳細な性質、さらには種々の非平衡多体系に現れるKPZ普遍性について解説する。
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