2022 年 17 巻 p. 3-17
長寿による老後期間の長期化と公的年金水準の低下とのなかで、老後の所得保障制度の再構築は、先進国共通の課題である。その対応は、引退タイミングの先送り、高齢者就業の促進(就業期間の長期化)や私的年金(企業年金、個人年金)といった金融資産の充実などが鍵になる。
特に重要になるのが、私的年金の充実である。2020年に行われた年金改革は、公的年金制度改革と私的年金(企業年金・個人年金)改革が一体的に行われたという点で注目すべき公私年金一体改革であったと評価できる。
今後、公的年金を補うように私的年金が拡充されることになるが、行動経済学の知見に基づいて、ナッジを使った個人年金加入誘導、より積極的な資産運用への誘導が必要になる。
さらに高齢期における認知機能変化が資産運用に与える影響を考える必要がある。長寿リスクと認知機能の低下リスクに対応するためには、老後の所得保障は、就業の継続、私的年金の取り崩し、繰り下げした公的年金の受給という順番に活用することが最も合理的な組み合わせになる。