70 歳以上の就業者について 、 ⾦融資産や年⾦の相談相⼿の有無や相談相⼿に 関して何らかの傾向を⾒いだしたい 。 相談相⼿の形態について「相談相⼿なし」「家族 、 親族のみへ相談」または「家 族以外の⼈へ相談している」の 3 つに分類した場合 、 性別・年齢階級別 ( カテゴ リー ) を問わず 、 構成割合は ⟨ 相談相⼿なし > 家族等のみ > 家族等以外 ⟩ の 順に⼩さくなっている 。 半数以上の者が ⟨ 相談相⼿なし ⟩ であり 、 各⼈で判断を ⾏っている 。 男⼥間での構成割合に差があるものの 、 性別を固定すれば年齢階級 による⼤きな差はない 。 ⼥性のほうが ⟨ 家族等のみ ⟩ に相談する者が多い 。 同居家族を「配偶者あり」「 ( 同居家族に ) 配偶者なし」または「同居家族なし」 の 3 つに分類する 。 同居家族の形態が異なっても ⟨ 相談相⼿なし ⟩ の割合が最も ⼤きくなっている 。 同⼀カテゴリー内での⽐較では同居家族なしの場合の ⟨ 相談 相⼿なし ⟩ の割合が最も⼤きくなることから 、 単⾝者のほうが「⾃分で判断して いる」者が多いと⾔える 。 同居家族に配偶者がいる者のほうが 、 いない者よりも ⟨ 家族等のみ ⟩ を選択する傾向にある 。 配偶者へ相談している可能性が⾼い 。 ⼥ 性は配偶者がいない場合でも男性ほど ⟨ 家族等のみ ⟩ の割合が⼩さくなっておら ず 、 ⼦等への相談を⾏っている者は男性よりも⼥性に多いと考えられる 。 家計維 持者でないならば家族への相談をする者が多くなると予想でき 、 同居家族の形 態だけでなく 、 家計維持⽅法が相談する・しないに影響を与えていると⾔える 。 婚姻状況 、 ⼦供の有無 、 世帯主であるかどうかも 、 相談相⼿の有無や ⟨ 家族等の み ⟩ である者の⼤きさに影響を与えていると考えられる 。 男性の場合 、 家計維持 者であるかどうかよりも 、 世帯主であるかどうかが家族への相談の有無へ影響 を与えている可能性がある 。 財産所得の有無 、 企業年⾦等の有無により 、 相談相⼿の形態別の構成割合は異 なっている 。 ⽣活についての意識では 、 ゆとりがあると予想できる者のほうが 「家族以外の⼈へ相談している」者が増える傾向にある 。
金融資産や年金のことで相談相手がいる人について
70歳以上の就業者について、金融資産や年金の相談相手の有無や相談相手に関して何らかの傾向を見いだしたい。
相談相手の形態について「相談相手なし」「家族、親族のみへ相談」または「家族以外の人へ相談している」の3つに分類した場合、性別・年齢階級別(カテゴリー)を問わず、構成割合は〈相談相手なし > 家族等のみ > 家族等以外〉の順に小さくなっている。半数以上の者が〈相談相手なし〉であり、各人で判断を行っている。男女間での構成割合に差があるものの、性別を固定すれば年齢階級による大きな差はない。女性のほうが〈家族等のみ〉に相談する者が多い。
同居家族を「配偶者あり」「(同居家族に)配偶者なし」または「同居家族なし」の3つに分類する。同居家族の形態が異なっても〈相談相手なし〉の割合が最も大きくなっている。同一カテゴリー内での比較では同居家族なしの場合の〈相談相手なし〉の割合が最も大きくなることから、単身者のほうが「自分で判断している」者が多いと言える。同居家族に配偶者がいる者のほうが、いない者よりも〈家族等のみ〉を選択する傾向にある。配偶者へ相談している可能性が高い。女性は配偶者がいない場合でも男性ほど〈家族等のみ〉の割合が小さくなっておらず、子等への相談を行っている者は男性よりも女性に多いと考えられる。家計維持者でないならば家族への相談をする者が多くなると予想でき、同居家族の形態だけでなく、家計維持方法が相談する・しないに影響を与えていると言える。婚姻状況、子供の有無、世帯主であるかどうかも、相談相手の有無や〈家族等のみ〉である者の大きさに影響を与えていると考えられる。男性の場合、家計維持者であるかどうかよりも、世帯主であるかどうかが家族への相談の有無へ影響を与えている可能性がある。
財産所得の有無、企業年金等の有無により、相談相手の形態別の構成割合は異なっている。生活についての意識では、ゆとりがあると予想できる者のほうが「家族以外の人へ相談している」者が増える傾向にある。
2023年4月に年金シニアプラン総合研究機構が実施した「70歳以上高齢者の就業状況に関する調査」(以下「70歳以上就業者調査」という。)では、金融資産や年金の相談相手について質問を行った(Q3_4)。性別・年齢階級別を問わず半数以上の者が金融資産や年金について「相談する相手はいない、自分で判断している」を選択する結果が得られている。
アンケート回答者の属性別に、相談相手の有無や相談相手について何らかの傾向を見いだすために、70歳以上就業者調査の主な調査結果ごとに相談相手の形態1別の人数分布を確認し、考察を行う。
阿萬(2021)は、金融広報中央委員会による金融リテラシ―調査と独自のアンケート調査とをもとにして、家計の金融リテラシーと情報接触との関係を分析している。回答者が全国の男女比・年齢層・都道府県分布と近似するように設計されたウェブ調査による独自のアンケートで、「日常的に資産運用の相談をしたり、アドバイスを受ける相手」を複数選択可能とした調査を行っている。相談・アドバイスの相手としては「家族・親戚」が最も多く31.5%が選択、次いで「友人・知人」16.9%の選択となっている。また、「相談しない・アドバイスを受けない」を選択した者は57.2%という結果であった。
家森・上山(2020)では、2016年9月にウェブ調査で20~30歳台、40~50歳台、60歳台以上からそれぞれ900人ずつの回答を集めて「金融リテラシーと金融トラブルや借り入れ行動についての調査」を行った。金融トラブル経験者と経験のない者とに分けてFPなどの専門家から助言を受けたい金融や経済の知識についての調査がなされているが、生活全般についての相談に関して「無料でも受けたいと思わない」と回答した者は、トラブル無の場合で20~30歳台13.0%、40~50歳台24.0%、60歳台以上39.3%、トラブル有の場合は20~30歳台16.5%、40~50歳台21.0%、60歳台以上31.2%であり、高齢者層の方が生活全般に関して相談をしたがらない傾向がある、資産運用についても同様の傾向があるとまとめている。
家森ほか(2020)は、2018年2月に実施され、高齢者3000人から回答を得たウェブ調査「高齢者の金融リテラシーと金融行動に関する調査 2018」について、高齢者の金融行動の観点で整理し、紹介を行っている。金融に関する知識・情報をどこから得ているのかの質問(複数選択可能)に対して、「書籍、雑誌、ホームページなどの独学」を選択した者は50.4%であり最も多く、次いで「金融機関の職員やパンフレット・広告」が33.3%となっている。一方、「金融の専門家(ファイナンシャル・プランナーなど)に対する個人的な相談」を選択している者は7.6%にとどまっている。
家森ほか(2023)は、2023年8月実施、20歳台以下、30歳台から70歳台以上まで10歳刻みで年齢を6区分に分けて、それぞれの区分で男女500人から、合計6000人の回答を得た「金融取引における助言者に対するニーズと要望についての調査」の結果を紹介している。「これまで①家計管理や生活設計、あるいは②金融取引について専門家に相談したことがありますか」という質問に対し、①については「相談できることは知っていたが、相談したことはない」39.6%、「相談できる先があることも知らなかった」36.9%という回答が得られている。②について「はい」と回答した者に「助言を受けた結果は満足できるもの」であったかの質問に対する回答が「ある程度満足できた」71.2%、「大変満足できた」11.0%であったことから助言の有用性が示唆されているとした上で、「大変満足できた」が1割程度であり助言のレベルについて改善の余地が残っているとしている。また、生活設計全般や退職後の計画等、11項目についてFPなどの専門家から助言を受けたいかの質問に対して、生活設計全般では29.9%、退職後の計画では24.5%の者が「無料でも受けたいとは思わない」を選択している結果を示してている。11項目のいずれかについて「無料でも受けたいとは思わない」と回答した者に、そのように思う理由について当てはまるものを全て選択する方法で確認しているが、「自分自身で決めたい」38.2%が最も多く、次いで「時間や手間がかかる」21.8%であった。
70歳以上就業者調査Q3_4では、金融資産や年金を相談する相手について7つの選択肢を準備し、該当する項目を全て選択する方法で質問を行っている2。
全てのカテゴリー3で、半数以上の者が「7 相談する相手はいない、自分で判断している」を選択しており、次いで「1 家族、親族」を選択している者が多い。「1 家族、親族」選択の者には、項番1のみを選択している者(家族、親族のみへ相談する者)と項番1を選択すると同時に項番2から6までのいずれかを選択している者とに分けることができるが、男性では30%弱程度、女性では30%強程度が項番1のみを選択している(表1の(3)〈家族等のみ〉)。項番2から6までを選択した者(表1の(3)〈家族等以外〉)はいずれのカテゴリーでも10%を上回る程度であるが、分析対象者を
・ 相談相手はいない、自分で判断している〈相談相手なし〉
・ 家族、親族のみへ相談〈家族等のみ〉
・ 家族、親族以外の人へ相談している〈家族等以外〉
と重複が発生しないように分類する。この3分類による形態を本稿では「相談相手の形態」と位置付ける。男性は40%を上回る程度、女性は50%を下回る程度の者が〈家族等のみ〉または〈家族等以外〉のいずれかに該当し、相談相手がいる4。性別を固定した場合、設定した相談相手の形態別の構成割合に年齢階級別では大きな差はない。
3.2 相談相手の形態別の人数分布70歳以上就業者調査の主な調査結果について、カテゴリーごとに、相談相手の形態別の人数分布を確認する。主な調査結果とは、枝分かれ質問5ではない、全ての回答者に回答を求める質問の結果である。但し、SC7は確認対象から除き、枝分かれ質問のQ1_2及びQ10については確認対象とする。
確認対象とした調査結果の人数分布は、全て、巻末の「相談相手の形態別の単純集計表」に示す。
3.3 回答結果の集約について以下の調査結果については、回答結果を集約してから人数分布の確認を行う。
3.3.1 居住地の都道府県(SC3)集計対象としている全てのカテゴリーで件数が10人以上になっている都道府県を表示対象とし、その他の都道府県については集約する。東京都、神奈川県及び大阪府が表示対象となる。
3.3.2 職業(SC6)「被用者」「自営業者」及び「その他」の別に表示を行う。
3.3.3 最終学歴(SC9)大学と大学院とはまとめて「大学以上」とし、中学校とその他とはまとめて「その他」として表示する。
3.3.4 同居家族(Q1)Q1では、7つの選択肢を準備して同居家族についての質問を行っている(表2の(1))。同居家族の「配偶者あり」の構成割合は男性80%台、女性70-74歳52.0%、女性75-79歳43.8%である(表2の(3))。一方、同居家族はいるものの、(同居家族である)配偶者がいない者(配偶者なし)の構成割合は、男性は数%であるが、女性は20%前後となっている。同居家族がいない者(同居家族なし)の構成割合は、男性は10%前後、女性は30%強である。これらを踏まえて分析対象者を
・ 同居家族の配偶者がいる(配偶者あり)
・ (同居家族あり)同居家族に配偶者はいない(配偶者なし)
・ 同居家族はいない(同居家族なし)
と分類する。この3分類による形態を本稿では「同居家族の形態」と位置付け、同居家族の形態ごとの表示を行う。
3.3.5 家計を主に賄う者(Q1_2)Q1の回答により同居家族がいると判定される者に対して、Q1_2で4つの選択肢を準備して「収入のある同居家族はいらっしゃいますか」と質問している。「いない」という回答を行った者の構成割合が2.5%(女性75-79歳)から9.2%(男性80-84歳)までの範囲にあることと、収入のある同居家族がいないのであれば当該者の家計は回答者本人により賄われることになることとから、「家計は主に回答者本人が賄っている」と「いない」とを集約し表示を行う。
3.3.6 収入(Q3_1)(1) 稼得収入
「0万円」「0万円超100万円未満」「100万円以上200万円未満」…「400万円以上500万円未満」「500万円以上1000万円未満」及び「1000万円以上」の8区分を設定し、回答された金額により回答者を分類して表示する。
(2) 財産所得
いずれのカテゴリーでも70%程度の者が「0万円」記入となっている6。回答金額が「0万円」の者を「財産所得のない者」、「0万円」超の者を「財産所得のある者」と集約して表示する。
(3) 公的年金・恩給7
「0万円」「0万円超100万円未満」「100万円以上200万円未満」…「300万円以上400万円未満」及び「400万円以上」の6区分を設定し、回答された金額により回答者を分類する。
(4) 公的年金・恩給以外の社会保障給付金8
いずれのカテゴリーでも90%以上の者が「0万円」記入となっている。回答金額が「0万円」の者を「公的年金・恩給以外の社会保障給付金のない者」、「0万円」超の者を「公的年金・恩給以外の社会保障給付金のある者」と集約する。
(5) 仕送り・企業年金・個人年金等・その他の所得9
いずれのカテゴリーでも80%程度の者が「0万円」記入となっている。回答金額が「0万円」の者を「企業年金等のない者」、「0万円」超の者を「企業年金等のある者」と集約する。
(6) 稼得収入+年金収入
「0万円」「0万円超100万円未満」「100万円以上200万円未満」…「400万円以上500万円未満」及び「500万円以上」の7区分を設定し、稼得収入と年金収入との合算額により回答者を分類して表示する。
3.3.7 何歳まで働くのか(Q6)どのカテゴリーでも「わからない、決めていない」を半数以上の者が選択している。また、ある年齢階級の者が選択する年齢で最も多くなる年齢は、当該年齢階級の上限年齢よりも1年上の5歳刻みの年齢である。例えば、男性70-74歳の者1332人のうち75歳を選択している者は304人(構成割合22.8%)である。以上を踏まえ、「75歳まで」「76-80歳」「80歳超の具体的な年齢を回答」及び「わからない、決めていない」別の表示を行う。
3.3.8 勤務先の企業規模(Q10)SC6の回答結果から被用者とみなされた者へ、勤務先の企業規模について質問を行っている。「10人未満」「10-99人」「100-999人」「1000人以上」「官公庁など、その他の法人・団体」及び「知らない」の6区分を設定する。
巻末の「相談相手の形態別の単純集計表」に調査結果ごとの人数分布を全て示すが、家族、収入及び生活に関する意識に関連した回答での人数分布について、以下で特徴的なことを取り上げる。
4.1 家族 4.1.1 同居家族の形態(Q1)図1にカテゴリー別に横軸に同居家族の形態10を示し、同居家族の形態別に相談相手の形態別の構成割合を示す。全てのカテゴリーで、同居家族の形態を問わず〈相談相手なし〉の構成割合が最も大きくなっていることが確認できる。
「配偶者あり」では、男性の場合、〈相談相手なし〉と〈家族等のみ〉との差は20%ポイント以上の差がある。一方、女性の〈相談相手なし〉と〈家族等のみ〉との差は3.8%ポイントである。
「配偶者なし」では、男性の〈家族等のみ〉は70-74歳5.0%、75-79歳19.0%であり、「配偶者あり」よりも小さくなる。また、〈家族等以外〉の構成割合が〈家族等のみ〉よりも大きくなっている。女性の〈家族等のみ〉は70-74歳29.3%、75-79歳34.6%である。
「同居家族なし」では、男性の〈相談相手なし〉の構成割合は70%以上あり、女性は60%を上回る程度である。男性70-74歳及び男性75-79歳では〈家族等以外〉の構成割合が〈家族等のみ〉を上回る。
同一のカテゴリー内で同居家族の形態ごとに〈相談相手なし〉を比較した場合、「同居家族なし」の構成割合が最も大きくなっている。また、〈家族等のみ〉を選択している者の割合は、男性80-84歳を除いて「配偶者あり」で最も大きくなっている。
4.1.2 家計を主に賄う者(Q1_2)同居家族ありの男性の半数以上で主に「回答者本人」が家計を賄っており、これに「回答者本人・同居家族」がつづく(70-74歳25.8%、75-79歳31.0%、80-84歳23.9%)。逆に女性では「回答者本人」を選択している者の割合は20%台である。女性の40%以上は「回答者本人・同居家族」を選択しており、「同居家族」が賄っている者は30%程度である。
全てのカテゴリーで、家計を主に「回答者本人」が賄っている者では〈相談相手なし > 家族等のみ > 家族等以外〉が成立している(図2)。女性70-74歳の〈相談相手なし〉61.2%は女性70-74歳全体の52.7%を8.4%ポイント上回るが、逆に女性75-79歳では3.6%ポイント下回っている。
家計を主に「同居家族」が賄っている男性70-74歳と75-79歳とでは〈相談相手なし > 家族等のみ > 家族等以外〉が成立しているが、他のカテゴリーでは〈家族等のみ〉の構成割合が最も大きい11。また、「同居家族」の〈家族等のみ〉の割合は「回答者本人」や「回答者本人・同居家族」よりも大きくなっている。男性80-84歳で「同居家族」の該当者は10人であり、男性80-84歳を除いて差分を確認すると、「回答者本人」との差は5.9%ポイント(女性75-79歳)から24.8%ポイント(女性70-74歳)までの範囲にあり、「回答者本人・同居家族」との差は2.5%ポイント(男性75-79歳)から11.3%ポイント(女性70-74歳)までの範囲にある。
「回答者本人・同居家族」では、男性80-84歳以外のカテゴリーで〈相談相手なし > 家族等のみ > 家族等以外〉が成立している。「回答者本人・同居家族」に該当する男性80-84歳は44人。このうち〈家族等のみ〉の割合は15.9%であり、男性80-84歳全体の27.0%よりも低い。また、〈家族等以外〉の割合は22.7%である。
4.1.3 婚姻の状況(SC4)いずれのカテゴリーでも未婚の者の割合は10%を下回っており、人数が少ない。
男性70-74歳では57人、女性70-74歳では46人の未婚の者がいるが、未婚の者の〈相談相手なし〉の割合は既婚の者の同値を25%ポイント以上上回っている。
4.1.4 子供の有無(SC5)「子供がいない」の割合は男性80-84歳7.0%であるが、他のカテゴリーでは10%台の水準にある。
全てのカテゴリーで、「子供がいない」者の〈相談相手なし〉の割合は「子供がいる」者よりも10%ポイント以上大きくなっている。
4.1.5 世帯主(SC8)男性は年齢階級を問わず98%以上が世帯主12であり、女性は70-74歳45.3%、75-79歳51.2%が世帯主である。
男性80-84歳を除けば「世帯主ではない」者では、半数以上が〈相談相手あり〉であり、「世帯主ではない」者の〈相談相手あり〉の割合は「世帯主である」者よりも10%ポイント以上大きくなっている。また、〈家族等のみ〉の割合は40%程度以上ある。
4.2 収入稼得収入や年金収入の金額階級ごとの人数分布で、相談相手の形態別の特徴を見いだすことは難しい。
図3に財産所得の有無別の相談相手の形態別の構成割合を示す。財産所得の有無に関係なく全てのカテゴリーで、〈相談相手なし > 家族等のみ > 家族等以外〉が成立しており13、財産所得の有無により構成割合の大小関係に違いは生じていないが、〈相談相手なし〉の構成割合は、全てのカテゴリーで「財産所得あり」の者のほうが「財産所得なし」の者よりも小さい。男性70-74歳3.9%ポイント、女性70-74歳9.2%ポイントの差であるが、他のカテゴリーでは10%ポイント以上の差である。逆に〈家族等以外〉の構成割合は、全てのカテゴリーで「財産所得あり」の者のほうが大きい。男性70-74歳9.5%ポイント、女性75-79歳では2.7%ポイントの差であるが、他のカテゴリーでは10%ポイント以上の差である。
公的年金・恩給以外の社会保障給付金がありの者の割合は、5.3%(女性70-74歳)から8.0%(男性80-84歳)までの範囲にある。相談相手の形態別の特徴を見いだすことは難しい。
図4に企業年金等の有無別の相談相手の形態別の構成割合を示す。企業年金等の有無に関係なく全てのカテゴリーで、〈相談相手なし > 家族等のみ > 家族等以外〉が成立している。また、女性75-79歳の〈相談相手なし〉の割合が「企業年金等あり」の者52.6%、なしの者51.0%である点を除けば、「企業年金等あり」の者のほうが〈相談相手なし〉の割合は小さく、全体的な傾向は財産所得の有無別と同様である。
4.3 生活についての意識 4.3.1 金融資産は十分に保有されていると感じている(Q3_2)金融資産は十分に保有されていると感じている者の割合は、男性はどの年齢階級でも20%台であるが、女性は70-74歳19.3%、女性75-79歳37.2%である。
全てのカテゴリーで、十分と感じている者の〈家族等以外〉の割合は感じていない者の割合よりも大きい(図5)。女性70-74歳では7.6%ポイントの差であるが、他のカテゴリーでは10%ポイント以上の差がある。
4.3.2 家計は厳しいと感じている(Q3_3)家計が厳しいと感じていない者の割合は女性75-79歳48.8%であるが、他のカテゴリーでは40%前後である。
全てのカテゴリーで、厳しいと感じていない者の〈家族等以外〉の割合は感じている者の割合よりも大きい(図6)。但し、女性75-79歳の差分は0.7%ポイントであり僅差である。男性80-84歳及び女性70-74歳では10%ポイント以上の差がある。
4.3.3 将来の生活維持に不安を感じている(Q3_5)将来の生活維持に不安を感じていない者の割合は32.2%(女性70-74歳)から50.4%(女性75-79歳)までの範囲にある。
女性75-79歳を除くカテゴリーでは、不安を感じていない者の〈家族等以外〉の割合は不安を感じている者の割合よりも大きく(図7)、差分は4.7%ポイント(男性70-74歳)から10.7%ポイント(男性80-84歳)までの範囲にある。
4.4 その他4.1から4.3での説明対象ではないが、一定の傾向があると考えられる2つの事例を以下に取り上げる。
4.4.1 若年期の自分自身に「忠告することはない」を選択している者(Q3_6)若年期の自分自身に「忠告することはない」を選択している者のカテゴリーごとの割合は7.8%(女性70-74歳)から11.3%(男性70-74歳)までの範囲にある。
全てのカテゴリーで、「忠告することはない」を選択している者の〈相談相手なし〉の割合は70%以上であり、カテゴリー全体やQ3_6の他の選択肢と比較しても〈相談相手なし〉の割合が大きくなっている。
4.4.2 仕事を辞める状態(Q7)全てのカテゴリーで、70%以上の者が「健康状態が悪化した」ならば仕事を辞めるとしており、次いで20%程度の者が「家族の見守り時間が増えた」を選択している。
同一のカテゴリー内では、「家族の見守り時間が増えた」を選択している者の〈相談相手なし〉の割合は、カテゴリー全体での〈相談相手なし〉の割合よりも小さい。男性70-74歳、女性70-74歳及び女性75-79歳での差分は10%ポイント程度になっている。
性別・年齢階級別を問わず半数以上の者が金融資産や年金について〈相談相手なし〉を選択する結果が得られている。また、主な調査結果ごとに相談相手の形態別の構成割合を見ても、〈相談相手なし〉の割合が最も大きくなるケースが多い。
調査対象者の属性が異なり、質問内容も同一ではないが阿萬(2021)でも相談しない者が半数以上になっている。また、家森・上山(2020)によると、高齢者層の方が生活全般や資産運用について相談したがらない傾向にある。家森ほか(2020)でも金融の専門家に相談する人が少ないことが述べられており、家森ほか(2023)では「自分で決めたい」と思っている者が多いことが述べられている。
全てのカテゴリーで半数以上の者が〈相談相手なし〉を選択している点や、調査結果に基づきカテゴリーを分割しても〈相談相手なし〉の選択の多さが確認できることは、一般的な傾向と考えられる。
5.2 家族同居家族の形態が異なっても〈相談相手なし〉の割合が最も大きくなっているが、同一カテゴリー内での比較では同居家族なしの場合の〈相談相手なし〉の割合が最も大きくなることから、単身者のほうが「自分で判断している」者が多いと言える。
同居家族に配偶者がいる者のほうが、いない者よりも〈家族等のみ〉を選択する傾向にあることから、同居家族に配偶者がいるならば配偶者へ相談している可能性が高い。一方で、女性は配偶者がいない場合でも男性ほど〈家族等のみ〉の値が小さくなっていないこと、同居家族なしでも女性70-74歳20.8%、75-79歳31.0%が〈家族等のみ〉を選択していることから、子等への相談を行っている者は男性よりも女性に多いと考えられる。
同居家族が家計を主に賄っている場合でも男性70-74歳と男性75-79歳とでは〈相談相手なし〉が最も多いが、〈家族等のみ〉へ相談する者が相対的に多くなる点からは、家計維持者でないならば家族への相談をする者が多くなると予想でき、同居家族の形態だけでなく、家計の賄い方が相談する・しないに影響を与えていることが示唆されている。
婚姻状況、子供の有無、世帯主であるかどうかも、相談相手の有無や〈家族等のみ〉に該当する者の大きさに影響を与えていると考えられる。世帯主ではない男性は少数である点に留意する必要があるが、世帯主ではない男性70-74歳の〈家族等のみ〉は41.7%であり、家計維持者が「同居家族」である男性70-74歳の〈家族等のみ〉は34.3%である。同様に、世帯主ではない男性75-79歳では50.0%、家計維持者が「同居家族」の男性75-79歳は38.9%であることから、男性の場合、家計維持者であるかどうかよりも、世帯主であるかどうかが家族への相談の有無へ影響を与えている可能性があると考える。
5.3 収入稼得収入や年金収入の額階級ごとの人数分布や公的年金・恩給以外の社会保障給付金の有無から相談相手の形態別の特徴を見いだすことは難しい。
一方、財産所得の有無や企業年金等の有無の別には、ありの者の〈家族等以外〉の構成割合がなしの者よりも大きくなっていることから、これらの所得を有する者のほうが専門家へ相談するニーズの高いことが示唆されている。
5.4 生活についての意識金融資産は十分に保有されていると感じている者、家計を厳しいと感じていない者及び将来の生活維持に不安を感じていない者のほうが、それぞれ相反する者よりも〈家族等以外〉の構成割合が大きくなっていることから、生活にゆとりのある者のほうが専門家へ相談するニーズの高いことが示唆されている。
5.5 まとめ相談相手の形態別の構成割合の大きさは〈相談相手なし > 家族等のみ > 家族等以外〉の順で小さくなっている。男女間での構成割合に差があるものの、性別を固定すれば年齢階級による大きな差はない。女性のほうが〈家族等のみ〉に相談する者が多い。
〈相談相手なし〉の者が半分以上を占めているが、70歳以上就業者調査の主な調査結果ごとに相談相手の形態別の構成割合を確認したところ、家族との関係で相談相手の形態別の構成割合に差が生じることが確認できた。また、財産所得、企業年金等の有無の別及び生活についての意識の違いで〈家族等以外〉へ相談する者が増える傾向にあることが確認できた。
阿萬弘行(2021)「家計の金融リテラシーと情報接触に関する考察」『商学論究』60巻1号, pp. 135-159.
https://kwansei.repo.nii.ac.jp/records/29860 (2024. 03. 05)
家森信善・上山仁恵(2020)「第1章 世代による金融リテラシーや金融行動の違い -「金融リテラシーと金融トラブルや借り入れ行動についての調査」をもとに-」家森信善編著『人生100年時代の金融リテラシーと金融サービス』経済経営研究叢書(金融研究シリーズ)No. 8, pp. 1-24.
https://www.rieb.kobe-u.ac.jp/research/publication/monetary_research/pdf/金融研究シリーズ%E3%80%80No.8(1・2章のみ).pdf (2024.. 05. 20)
家森信善・上山仁恵・柳原光芳(2020)「第2章 わが国高齢者の金融リテラシーと金融行動 -「高齢者の金融リテラシーと金融行動に関する調査」をもとに-」家森信善編著『人生100年時代の金融リテラシーと金融サービス』経済経営研究叢書(金融研究シリーズ)No. 8, pp. 25-62.
https://www.rieb.kobe-u.ac.jp/research/publication/monetary_research/pdf/金融研究シリーズ%E3%80%80No.8(1・2章のみ).pdf (2024.. 05. 20)
家森信善・上山仁恵・荒木千秋(2023)「「金融取引における助言者に対するニーズと要望についての調査」の結果概要」RIEB Discussion Paper Series No.2023-J10
https://www.rieb.kobe-u.ac.jp/academic/ra/dp/Japanese/dp2023-J10.html (2024. 03. 05)
Q3_4の回答結果を用いて、「相談相手なし」「家族、親族のみへ相談」または「家族、親族以外の人へ相談している」の3つに分析対象者を分けて分析を行う。本稿ではこの分類を「相談相手の形態」と呼ぶ。3.1参照。
70歳以上就業者調査の質問内容や単純集計の結果は、以下の報告書を参照すること。
https://www.nensoken.or.jp/wp-content/uploads/NKEN22_1.pdf
本稿で用いる「カテゴリー」は、性別と年齢階級別とにより分類した男性70-74歳、男性75-79歳、男性80-84歳、女性70-74歳及び女性75-79歳の区分を指す。男性85-89歳、女性80-84歳及び女性85-89歳も対象にしてアンケートを実施したが、それぞれの区分で分析対象者数が100人を下回ったため、本稿では分析対象としない。
構成割合の大小関係は〈相談相手なし > 家族等のみ > 家族等以外〉となっている。
枝分かれ質問とは、ある質問で特定の選択肢を選択した人のみへ行う質問のこと。例えば、Q1_2はQ1の回答結果から「同居家族あり」と判定された者のみが回答する(3.3.4及び3.3.5参照)。また、Q10は勤務先の企業規模についての質問であるが、SC6の回答結果から被用者とみなされた者への質問である(3.3.2参照)。
厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査」所得票の第52表より、財産所得のある世帯は全体で9.1%、世帯主が65歳以上では11.2%、75歳以上では10.2%であることがわかる。
以下「年金収入」と表記する。
働く高齢者が受給する公的年金・恩給以外の社会保障給付金としては、生活保護、年金生活者支援給付金や労働者災害補償保険が考えられるが、詳細は不明である。
以下「企業年金等」と表記する。
3.3.4 参照
家計を主に「同居家族」が賄っている女性75-79歳では〈相談相手なし〉11人、〈家族等のみ〉11人であり、構成割合は44.0%である。
「世帯主ではない」者は、男性70-74歳12人、75-79歳6人、80-84歳4人、女性70-74歳280人、75-79歳59人である。
女性75-79歳の「財産所得あり」では〈相談相手なし〉14人、〈家族等のみ〉14人であり、構成割合は42.4%である。男性70-74歳の「財産所得あり」では〈家族等のみ〉89人、〈家族等以外〉89人であり、構成割合は21.6%である。