欧州危機に伴う南欧3国の政治的危機は, 各国の政治構造の基本的特徴と外圧への適応形態 (対外的統合) の水準に応じて様々な形をとった。スペインとポルトガルでは, 対外的統合の強化による政策選択肢の消滅という形での代表の危機が生じたが, 政権の側ではこれを新自由主義政策の徹底化の好機と捉える動きもあった。かねてから政策自律性を失っていたポルトガルでは, 統治機構内の水平的統合機構が外圧と結託した政府の暴走を抑制したが, 脱政治化の加速によるデモクラシーの空洞化を防げていない。スペインでは水平的統合機能が有効に作用せず, カタルーニャ独立問題に代表される対内的統合の危機もまた, 外圧を背景とする中央政府の権力の突出と民主化期以来のコンセンサス型要素の後退につながっている。過剰な多数決型政治を特徴とするギリシャでは, 外圧の下での構造調整が伝統的な政党支配を掘り崩すとともに, ポピュリズム的な両極政党の台頭を促し, 対外的統合と代表との間に鋭い緊張関係を生じた。同国では単純多数を前提とする政治の手詰まりが執行府と立法府との関係をも不安定化した結果, 他に類を見ない政治的カオスが現出した。