年報政治学
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《特集》
  • ―2010年代のスペイン・ポルトガル・ギリシア
    横田 正顕
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_15-2_43
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    スペイン、ポルトガル、ギリシアの3国は、2010年代に欧州債務危機に始まる連続的な外生性の尖鋭な危機に襲われ、その中で政党システムの劇的な変化を経験した。本論文の目的は、一連の危機の中で政党間の競争構造が変化するメカニズムについて比較考察することである。本論文では、政党システム変化に関するKenneth Robertsのモデルに倣って、主流派政党によるカルテルの衰退と、「代表の危機」 と、非主流派の挑戦者政党の台頭とを描く。3国においては、主流派政党間の責任転嫁のゲームと、現存デモクラシーの脱正統化の程度と、「運動政党」 としての挑戦者政党の成功の程度が異なっていた。また、第1の尖鋭危機と第2次尖鋭危機とがもたらす紛争の次元も異なり、一部には各国固有の国内危機の尖鋭化も加わった。3国の政党システムの現状における大きな違い―2大政党システムの断続平衡 (ギリシア)、主流派カルテルの半壊による開放的競争の持続 (スペイン)、政権構成のレパートリーの追加 (ポルトガル)―を説明するには、これらの偏差を考慮に入れる必要がある。

  • ―ポーランドにおける若年層の政治指向
    仙石 学
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_44-2_56
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    本論文においては、ポーランドにおける若年層の政党支持に関する傾向を検討した。現在のポーランドでは、若年層の男性は反欧州を主張する自由独立連合を、女性は女性の立場やLGBTの権利を重視する左派を支持する傾向がある。この点については、まずはそれぞれの政党が、法と正義の政権のもとでは自分たちの利益が反映されないと考える若年層をひきつけることにある程度成功したことが作用している。ただそこで政党支持にジェンダーの差が生じた理由としては、反欧州と反ジェンダーが 「EUからの強制への反発」 という点で結びついているという要因が作用している。今後は今の若年層が社会の中心となっていく中で、この対抗関係がどのように変化するかを検討することが、一つの課題となるであろう。

  • ―チェコにおける 「ビジネス企業政党」 ANOと政党政治の変容
    中田 瑞穂
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_57-2_84
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    本稿では、東中欧の新興民主国チェコを取り上げ、2013年以降の政党政治の変化において中心的な役割を果たした新党ANOの特徴を明らかにする。ANOは、イデオロギー的なポジションをとらず、ヴェイレンス・イシューによるアピールで支持を集めた。ANOの主張は、反腐敗にとどまらず、よりよい生活に向けた政策の合理性と効率性のアピール、世論調査の利用、政策実施能力のアピールという特徴を持つ。政党組織としては、企業家バビシュが党の設立、意思決定に大きな役割を果たし、有権者とのコミュニケーションは、外部の専門家を利用した政治的マーケティングによって実施されている。地方支部も備えた党機構は、中央集権的でトップダウンに運営され、企業的な人事の手法も採用されている。このようなビジネス企業政党としての特徴は、既成政党にも見られる選挙プロフェッショナル政党化の傾向が純粋な形で現れたものともいえるが、政党が、政党創設者の私的な目的と結びついている点で既成政党と異なる。ANOの成功は、ポジショナルな政党間競合を弱め、市民の政策の消費者としての側面を強化し、政党政治の変化をもたらした。

  • 伊藤 武
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_85-2_103
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    イタリア第2共和制の主流派政党である中道左派の民主党と中道右派のフォルツァ・イタリア/自由国民は、非主流派的位置から出発しながら、2000年代の比較的短い期間で主流派政党としての地位を確立し、直後に衰退を経験する。2010年代にかけて中道左派の社民系政党の衰退が顕著な西欧と対照的に、中道右派の方が大幅に縮小する点で際立っていた。

     両党がこのような特徴的な衰退過程をたどったのはなぜだろうか。両党の衰退は、ポピュリスト政党の勢力拡大など従来の比較政治的説明では十分説明できず、争点移動に伴う政党組織としての需要・供給サイドの調整という集合行為問題の処理に注目すべきである。理論的仮説としては、政党の組織力と指導者への集権化が、党内調整における集合行為問題の発生に影響を与えることによって、衰退を左右するとみなすことができる。この仮説をイタリア第2共和制の政党に関するデータを用いた量的分析と、2党に関する事例分析によって検証する。

     本稿の分析は、中道左派における系列組織の関与や中道右派における個人化と組織化のバランスの重要性を発見することで、イタリアの個別事例を超えて、西欧の主流派政党の衰退の理解に貢献する。

  • 馬場 香織
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_104-2_136
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    本稿は、メキシコの政党システムの変容がなぜ起こり、それがいかなる性格のものであるかを明らかにすることを目的とする。従来メキシコの政党システムは、ラテンアメリカ地域のなかでも比較的安定的で、制度化のレベルが高いとされてきた。しかし、新興左派政党Morenaの登場を受けて、2015年から2021年現在にかけてのメキシコの政党システムは大きな変容を経験した。本稿では、システム変容の実態を、政党と有権者との編成に基づくパターンに照らして明らかにしたうえで、システム変容を理解するうえで重要な3つの分析視角に基づき、2018年選挙における政党支持の要因を検討する。分析の結果、メキシコの政党システム変容のメカニズムには、既存政党に対する不満の受け皿として登場した新党への支持という、ラテンアメリカの脱編成事例との共通点がみられる一方、旧来の左派政党であるPRDとMorenaの置き換わりが進む形で左派再編が進んでいることも確認された。この結果は、メキシコの政党システム変容を 「完全な脱編成」 として捉えるのではなく、「突然の再編成」 として捉える見方の有用性を示唆する。また本稿では、組織犯罪に関連する暴力が政党支持に与える影響についても考察する。

  • ―左右両極連立と政党有権者関係
    中井 遼
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_137-2_160
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    従来、少数の政党で安定的に運営されてきたエストニア政党政治は2010年代後半からいくつかの変化に見舞われる。それまで無縁だった極右ポピュリスト政党の台頭を経験し、さらに既存の中道左派政党との連立政権が誕生する。

     この変化の背景として3点を指摘する。1) 一見両極に位置する政党が手を組めたのは、安定した政党システムの上で長期政権を敷いていた右派リベラル政党の長期政権に対する、異議申し立てという共通項を有していたからであった。2) 連立政権成立後に誰が両党を支持し続けたのか世論調査データをもとに分析したところ、そこには一定の地域的な偏りが見られた。3) 事例分析から、両党がそれぞれの基盤地域において、非政策的な手段をもって有権者との強いリンケージを構築していた可能性が示唆された。

     これらが意味するのは、政党が組織化や有権者とのリンケージ形成を強めることによって、従来実現しえなかった政権フォーミュラの刷新がエストニアで発生したということである。政党と有権者のつながりが希薄化し政党システムが脱編成することによって変化が起きるという、先進民主主義国で見られるパターンとは逆の現象が起きている。

《公募論文》
  • ―智者政批判との関係から
    山口 晃人
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_161-2_184
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    民主政論者は、知識や能力に応じて意思決定への影響力を不平等に分配する 「智者政 (epistocracy)」 を否定し、意思決定への影響力を平等に分配する 「普通参政権 (universal suffrage)」 を擁護している。その一方で、ほとんどの民主政論者は、子どもには有権者として必要な能力が欠けていることを理由に、参政権を大人に限定することを容認している。

     本稿では、民主政論者が智者政による能力に基づく政治的影響力の不平等分配を批判しながら、能力に基づいて子どもの参政権を否定することは、一貫性を欠いていると論じる。子どもの参政権剝奪を正当化可能な理由は能力以外にないと考えられるため、民主政論者は、以下の2つの道のいずれかを選ばなければならない。1つは、あらゆる能力による区別に反対し、子どもを含めた真の普通参政権を支持する道である。もう1つは、民主政の理念型から逸脱することを受け入れた上で、大人のみの普通参政権を支持する道である。本稿は更に、前者の道を選び、子どもに参政権を認めることが民主政論者にとって大きな負担にはならないことを示すとともに、後者の道を選んで、大人のみの普通参政権を支持する場合の難点を指摘する。

  • ―M・ルースの正当化論の批判的検討
    岸見 太一
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_185-2_208
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    本稿は、日本の技能実習制度や特定技能制度のような、「一時的労働移住制度 (Temporary Labour Migration Programs、TLMP)」 でなされる外国人労働者の権利制限の規範的な正当性を政治理論的に考察する。特に、国際機関の移住に関する近年の政策文書にも重大な影響を与え、TLMPの政策慣行において共有された根拠を体系的に示したM・ルースの正当化論に着目し、彼の論証を分析的に再定式化したうえで、批判的に検討する。具体的には、彼が提示した同意の自発性に訴える論証と、資源の希少性に訴える論証をそれぞれ検討する。TLMPはしばしば、外国人労働者と受け入れ国の人びとの間の取引や契約として捉えられる。したがって、筆者は、取引の妥当性を評価するために広く用いられてきた 「応報性の観念」 を、彼の正当化論が適切であるかどうかを評価する基準として採用する。この観念に基づけば、TLMPの妥当性は、外国人労働者が享受する利益が少なすぎるものでないかどうかで判断される。本稿は結論として、資源の希少性という、ルースが提示したもっとも説得的な根拠に照らしても、TLMPから外国人労働者が享受する取り分は少なすぎるため、外国人労働者の権利制限は正当化できないことを示す。

  • ―内閣支持理由データを用いた長期的分析
    小野 弾
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_209-2_233
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    本稿では時事通信社の世論調査データの分析から、マクロレベルでの内閣支持の形成と変動の要因を検討する。内閣支持のサブクエスチョンである内閣支持理由にStimsonの再帰的二項モデルを適用し、「政権能力支持」、「漠然支持」 という内閣支持に関する2つのムードを析出した。数値の推移をみると、55年体制期は漠然支持、93年以降は政権能力支持ムードの値が高く、政権交代・制度改革を経て政権支持がより政権能力の評価に基づくものになっている。また、両ムードの組み合わせにより内閣支持率の93%が説明される。ベクトル自己回帰モデル (VAR) によって経済変数とそれぞれの支持ムードの関係を分析すると、日経平均株価は政権能力支持ムード、GDP成長率は漠然支持ムードに影響することがわかった。有権者は経済状況を判断材料として内閣支持を決定してきたが、55年体制期に比率が高かった漠然とした支持が経済成長に基づいたものであったのに対して、55年体制崩壊後に主となった政権の能力評価に基づく支持は日経平均株価からの影響を受けている。

  • ―二層ゲーム論の発展による撤退決定過程の解明
    中村 長史
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_234-2_256
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    領域国内の平和定着を領域国外からの派兵によって実現しようとする「武力を用いた平和活動」 からの撤退決定が可能となるのは、いつか。活動の一参加国に着目する先行研究は、派遣部隊の犠牲者数増加を有権者から批判されそうなときだと論じてきた。しかし、活動の主導国については、このような 「目前の非難」 回避のための撤退決定は、論理的にも経験的にも考えにくい。そこで、本稿では、主導国は 「将来の非難」 回避をも図ると捉える。また、介入時には対内正当化が最重要であるが撤退時には対外正当化が最重要になる 「重要度の逆転」 が起こるという形で、二層ゲーム論を発展させる。この 「将来の非難」 回避と 「重要度の逆転」 を踏まえれば、以下のような仮説が得られる。すなわち、撤退後に治安が悪化した場合に生じる不満を他の主体に逸らすことができるとき、撤退決定が可能になる。その責任転嫁の対象については、国内主体として前政権、国外主体として国際機関や被介入国などが考えられるが、撤退を正当化する際には対外正当化が最重要となるため、国外主体への責任転嫁こそが必要になるのではないか。この点につき、米国主導のソマリア、イラクへの介入を事例として分析を加える。

  • ―ヴァイマル憲法48条をめぐって
    遠藤 泰弘
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_257-2_281
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    ヴァイマル共和国の崩壊とナチス第三帝国成立の一つの鍵となったヴァイマル憲法48条 (ライヒ大統領の非常権限) をめぐっては、従来ヒンデンブルク大統領時代末期の濫用に関心が集中してきたため、議会制民主主義に対する理解不足という批判的な観点から断罪されることが多かった。本稿は、ヴァイマル憲法48条の非常権限の問題を、ヴァイマル末期から逆照射するのではなく、起草者であるプロイスや制憲議会議員の目線から、同時代知識人との横の関係をも視野に入れて、内在的かつ立体的に解明する取り組みの一環として、プロイスとシュミットの48条論を比較するものである。

     国家論において対照的な立場にある両者であるが、48条2項第1文と第2文の関係についての解釈や、48条5項に予定されていたライヒ法律の取り扱いといった論点で、結果的に平仄の合う部分を見せるなど、これまであまり知られていない両者の新たな側面を描き出すとともに、非常事態とデモクラシーという、現下の時代状況とも密接に関連する、より広いコンテクストにおける有益な視座の構築にも寄与しようとするものである。

  • 趙 頔
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_282-2_303
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    本論文では、大政翼賛会の中央協力会議の整備過程と運用状況を考察し、会議が 「下情上通」 の機能を発揮した状況を分析する。中央協力会議の意義・役割を再評価するとともに、翼賛体制における民意の表出と反映の状況をさらに解明する。

     本論文の考察から、以下の事実が分かった。制度上、中央協力会議の 「下情上通」 機能に限界・制限があった。とはいえ、女性のような参政権をもたない国民も中央協力会議の会議員に選任された。また、各回通常会議では数多くの議案が提出され、国民生活安定化などの内容も有していた。相当の数の議案が政府に送付され、その一部が政府によって行政命令公布、政策起案を以て実現された。このようにして一定の程度で中央協力会議を通じて民意が表出され、政府に伝達され、政府の行政・政策決定に反映された。

     以上の事実に基づき、中央協力会議は一定の程度で 「下情上通」 の機能を発揮した、という結論が得られた。また、中央協力会議を通じた民意の表出、政府の行政・政策決定への民意の反映が確認され、翼賛体制における民意の表出と反映の状況をより正確に把握できた。

  • ―マキァヴェッリの共和主義における平民理解
    横尾 祐樹
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_304-2_325
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    本稿は、ニッコロ・マキァヴェッリ (1469‒1527) における平民の利害を擁護する法制度の検討を通じて、少なくとも1510年代から1520年代初頭にわたって、一貫して平民階級に対する一定の警戒が保持されており、平民階級が国制内部における唯一の、そして特権的な地位を持たない点を明らかにする。『ディスコルシ』 は、護民官が持つ監視者としての機能 (例 : 弾劾権) を強調する一方で、護民官の弾劾権や過剰な平民階級の権限肥大化は、むしろ修正されるべき弊害であり、護民官制度もまた、貴族―平民間の均衡状態を恒久的に維持させる万能の解決策ではない。この状態は、平民階級もまた、何らかの弊害 (その判断力には制約があり、無謬性の想定がなされない/平民側もより獰猛で有害な権力欲を持ちうる) を持つ点から発生する。他の諸集団 (貴族、君主) 以上に判断において誤ることが少ないという、いわば消極的選択から、平民階級に対するマキァヴェッリの依拠が構成される。かくして、彼の枠組みにおいて、護民官を通じた平民の権限拡張すら、敵対する諸集団同士の動的均衡を究極的に保証する手段ではない。そしてこの構図は、1520年代初頭の 『フィレンツェ政体改革論』 以降も踏襲される。

  • ―ヒトの声だけを拾えば済む時代の終焉へ
    前田 幸男
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_326-2_349
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、ある特定のヒトの繁栄のために他のヒトおよびヒト以外の種を犠牲にしている状況を受けて、ノン・ヒューマンからのシグナルを 「声」 という形で拾い上げていくことはいかにして可能かという問いに応答することにある。本稿はいかにしてデモクラシーの主体をヒトに限定せずに構想できるかという問いに応答するものでもある。これにより環境破壊の阻止という実質的結果も得ることを目指すことを意味する。本稿はまた、ヒトが生態系と地球全体に与え続けている負荷に対して、気候危機や新型コロナ危機などのノン・ヒューマンから人類に挑戦が仕掛けられているという問題構成に立脚して議論を行っている。

     そのためにまず第1節と第2節で自由民主主義体制の限界地点を確認し、第3節でそれを超えようとする熟議民主主義、第4節で 「モノゴトの議会」 の議論を経由したアゴーン的デモクラシーに焦点をあてる。第5節で政治的主体のノン・ヒューマンへの適用の仕方についてジェーン・ベネットを参照しながら論じる。第6節でノン・ヒューマンの立憲主義的な新展開について論じ、最後に生命の豊饒さをデモクラシーの豊饒さとして反映させ、ヒトとノン・ヒューマンとの関係性を戦争から政治へ転換させていくための課題を挙げることで論を閉じる。

  • ―憲法パトリオティズム再考
    牧野 正義
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_350-2_370
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    今日、グローバル化の負の影響によってもたらされつつある連帯の危機への対応の仕方が問われている。ユルゲン・ハーバーマスの討議理論は、一人ひとりの多様な生を尊重するための平等な権利保障という普遍主義的観点を重視し、EU論や 「国際法の立憲化」 論など、越境的レベルにおけるシティズンシップの可能性を示す議論も展開している。さらなる検討が必要なのは、市民は同様の規範的観点から国民国家の役割をどのように位置づけうるのか、という問題である。本稿では、討議理論の中で普遍主義的憲法原理に立脚した国民的自己理解の様式として取り上げられている憲法パトリオティズムを、①福祉国家の理念・成果の明確かつ反省的な位置づけ、②グローバルな不正義の克服という文脈への位置づけ、という二つの面で深化させることが、諸権利のより確実な保障という目標の実現に向けて有益たりうることを指摘したい。これらの 「深化」 により、市民が各国民国家内部における政治的対処の余地や責任の所在を再確認しつつ、越境的レベルにおける (国内的レベルと連続した) 立憲化のプロジェクトに対する各国家の建設的関与も促進していくことが可能になると期待される。

  • ―ロールズ主義における障害者包摂をめぐって
    大庭 大
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_371-2_394
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    生産性と相互性を擁護するリベラルな政治理論の意義は何か。また、そのような理論が関わる排除はいかにして最小化されうるか。本稿はロールズ主義の諸理論に焦点を当ててこれらの問いを考察する。

     ロールズの正義論の部分的修正による排除の問題への対応は二つに大分されうる。ひとつは生産的貢献の要件を厳格に理解しつつ包摂を目指す立場、もうひとつは生産的貢献の要件自体をより拡張的に理解する立場である。本稿ではこれらの提案を検討し、いずれも非典型的資質をもつ人を適切に社会的協働に包摂する施策を導くことに失敗していると論じる。そのうえで、既存の議論の不備を乗り越えるロールズ主義の構想を提示する。本稿の提案は、ロールズ理論の特徴として析出される協働の四要件と相互性の制度媒介モデルを維持しつつ、社会的協働を脱個人主義的に理解することである。ロールズ主義は、相互性に基づく生産的貢献を社会制度の正義にとって重要な価値と位置づけつつ、非典型的な資質をもつ人を社会的協働の枠組みに包摂することを指令する。本稿は、社会的協働への参与のための広範で実質的な支援の提供に、正義の優先的課題という地位を与える。

  • ―在外選挙制度と在外国民評議会を中心に
    宮井 健志
    2021 年 72 巻 2 号 p. 2_395-2_417
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    本稿は、在外国民に関係する政治制度に代表民主主義論の観点から接近する。主な関心は2点ある。第一に、在外国民には送出国の政策決定過程へと参加する資格があるのか。第二に、在外国民の利害は政策決定過程でどう代表されるべきか。本稿では、この二つの問いを念頭に、在外国民と代表民主主義の問題を検討する。その際、在外選挙制度だけでなく、その独自の利害を代表する試みとして 「在外国民評議会」 の事例を取り上げる。在外国民の独自の利益を代表する上では、同化代表であれ分離代表であれ、在外選挙制度は適当ではない。選挙を通じて顧慮しにくい独自の利害を代表する上では、目的限定的な諮問機能を果たす在外国民評議会制度を採用することが望ましい。通常の議会の外で民主的に運営されるこの制度は、在外選挙制度における代表性の赤字を補完し、在外国民の利害をより公正に代表する制度として推奨されうる。それだけでなく、評議会制度は、他の集団への高い応用可能性と、議会制民主主義を議会制によって補完するという理論的含意をもつ。

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