年報政治学
Online ISSN : 1884-3921
Print ISSN : 0549-4192
ISSN-L : 0549-4192
最新号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
《特集》
  • ―政策停滞と内閣短命化
    竹中 治堅
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_33-1_70
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     本稿は次の三つの目的のために2007年から2009年及び2010年から2012年に至る二つの分割政府期の政治過程を分析する。第一の目的はこの時期に首相が参議院における与党勢力を拡大しようとしたのか確認すること、次は参議院が政策決定過程に及ぼした影響を探ること、そして三番目は参議院が政策決定過程に及ぼした影響がさらに政権の命運にどのように作用したのか明らかにすることである。

     分析の結果、次のことを示した。第一の目的については、分割政府の時期に、首相は参議院の支持勢力の拡大に努めたこと。第二と第三の目的については、分割政府期において政策決定過程は全般的に停滞し、内閣は短命となったこと。ただし、与党が衆議院において三分の二の議席を確保している場合といない場合で違いがあり、三分の二の議席を確保している場合には重要政策の実現は可能であるものの政策が中断、あるいは、その実現が遅延する場合が多く、中断や遅延は内閣支持率を低下させる原因となり、内閣の短命化の一つの要因となったこと。一方、与党が三分の二議席を確保していない場合には、首相は当初構想していた重要政策の内容を見直すか、実現そのものを断念せざるを得なくなることが多く、さらに、首相は一部の重要法案を成立させるために内閣の命運自体を賭けなくてはならなかったこと。

  • ―仕切られた多元主義との相克
    辻 由希
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_71-1_94
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     本稿では、女性の政治代表性の向上と、女性の権利や利益、ジェンダーの平等に関わる政策の推進に関して、参議院がどのような役割を果たしてきたのかを検討する。強い権限を持つ参議院の制度的な効果は、それを取り巻く日本政治の全体的な権力構造の変容による影響も受けると考えられる。そこで本稿では、仕切られた多元主義の確立後の55年体制後期と、執政制度改革が行われた2001年以降という2つの期間を比較することで、時的な変化も探る。参議院の女性議員の発言の分析と女性の利益や権利に関わる政策転換が争点となった事例の検討から、女性議員の多い参議院は、下位政府で包摂されにくい女性集団の利益の表出や「仕切り」の外からの議題設定に貢献してきたが、それは親フェミニズム陣営にとって常に有利に働くわけではなく、反フェミニズム陣営にとっても機会を提供したことが分かった。また21世紀に入り執政府への集権化が進展したことにより、参議院が持つ権力の分立的効果が顕在化したが、それは女性政策の推進にとって両義的な意味を持つことが明らかになった。

  • 大西 祥世
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_95-1_122
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     国会の活動は会期中に限定される。内閣は実質的に国会の召集を決定するが、立法府として国会が活動する時間・期間を区切ることになるので、その開会、閉会・延長に関する内閣および国会、与党と野党の協議と決定は非常に政治的である。

     国会閉会中、衆参各院は議院自律権の「国政調査権」として、委員会にて審査・調査を行うことができる。これを閉会中審査という。同審査は、案件を特定して後会に継続して議論するための制度であるが、他方、衆参各院の議員の4分の1以上から臨時会の召集要求(憲法53条)があったとき、内閣が国会を召集する「国会」の代替として活用されている。

     本論文は、2003年から2022年までの20年間に行われた閉会中審査300件の実態を調査して、2003年から2019年までの過去の運用と、それから大きく変化した2020年以降の実態とを比較し、臨時会召集要求や会期制とあわせて検討した。とくに近年の閉会中審査は、臨時会召集要求や憲法83条の財政民主主義などの解釈・運用に大きな影響を及ぼし、内閣や国会の権力の融合と分立および議院内閣制や二院制に深くかかわる憲法学・政治学の重要な課題であることを明らかにした。

  • ―イタリアにおける議院内閣制と二院制
    池谷 知明
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_123-1_149
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     イタリアの議院内閣制と二院制の関係は、「弱い」内閣と「強い」議会に特徴付けられる。内閣は上下両院から信任を受けて成立するが、内閣は議会を解散できない。同輩中の首席である首相が率いる連立内閣は不安定で、議会多数派の凝集性も低かった。他方で政権から排除されていた共産党は議会の決定過程に参加できていた。第2共和制に入ってからは左右の2極化が進み、選挙で勝った選挙連合が政権連合として政権を担い、政権交代も実現した。しかし、連立内閣の不安定性と議会多数派の凝集性の低さは変わらなかった。2013年、2018年両院選挙では、勝者が出ず、選挙後に政党間で連立交渉が行われるようになった。そこでは大統領の役割も重要である。第1共和制のコンセンサス・モデルからウェストミンスター・モデルへの移行をめざして上院の権限縮小を中心とする制度改革が議論されているが、前提となる政党システムが脆弱な状況では、ウェストミンスター・モデルへの移行は困難であろう。

  • ―強力な二院制が生み出す固有の政治的論理?
    加藤 雅俊
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_150-1_177
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、オーストラリア連邦における議会政治の経験を手がかりに、S・ガングホーフ(Steffen Ganghof)により、執政制度の類型の一つとして提示された「半議院内閣制(semi-parliamentarism)」概念の有効性と課題を確認することにある。

     ガングホーフは、執政の成立と存続に注目し、「半議院内閣制」を、① 執政が国民から直接的に選出されない、② 上院および下院のそれぞれが国民から直接的に選出される、③ 執政の存続が両院のうち、いずれかのみに依存するものとして定義し、オーストラリア連邦や日本が当てはまるとする。そして、この「半議院内閣制」が、民主政治の「多数決型」と「比例代表型」の諸要素をバランス良く実現するものと指摘する。

     しかし、オーストラリア連邦の議会政治の経験を振り返ってみると、ガングホーフが注目する「下院における絶対多数を背景とした、上院における争点ごとの合意形成」が実現するのは自明とは言えず、主として1990年代以降に限られる。オーストラリアの経験は、「半議院内閣制」が理論的な想定通りに機能するためには、上院における穏健的な多党化や、上院を過度に政治利用しないという信念の共有など、文脈・条件が重要であったことを示唆している。

  • 田中 嘉彦
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_178-1_201
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     英国の政治システムにおいて、議院内閣制と二院制は基幹的な制度であり、いずれもが漸進的に形成されてきたものである。そして、議会下院である庶民院の信任を基礎とする単独過半数内閣への執行権の集中という特徴を有する多数派型デモクラシーの中で、議会上院である貴族院の存在意義が問われてきた。現代の貴族院は、世襲貴族の大多数が排除され、一代貴族が中心の任命制の上院となっている。貴族院の公選化に先立ち議会期固定の制度化もなされたが、公選議員を導入する貴族院改革法案の頓挫を経て、首相の裁量的解散権も復活するに至っている。貴族院の影響力としては、市民的自由、憲法的妥当性に関する政府敗北という法案修正に見ることができる。貴族院の存在意義としては、抑制と均衡、補完、熟議ということに引き継がれている。そこでは、現代の貴族院が非公選であるがゆえに庶民院に比して専門性が高く、全体として非党派的な議院であるという積極的な評価をすることができる。現在の貴族院が有する正統性としては、「入力上の正統性」、「手続上の正統性」、「出力上の正統性」があるとされる。その背後には、民主的正統性とは異なる「専門知による正統性」が存在するといえるであろう。

  • ―ハイエクの権力分立論と思想史理解の変遷
    上村 剛
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_202-1_224
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     本論文は、立法議会と統治議会というフリードリヒ・ハイエクの議会改革論と権力分立論の意味を再検討するものである。従来彼の議会改革論は低く評価され、権力分立概念の意味もほとんど研究対象とされてこなかった。これに対して本論文は、政治思想史のアプローチの採用によって、『自由の条件』から『法と立法と自由』の間、ハイエクが接した同時代の著作や議論の内容と、それによって生じた議論の変化(とりわけノモテタイという古代ギリシアの特別立法委員会への注目や自然の貴族政論への傾斜)に着目し、議会改革構想の一貫性・重要性とその基礎にある権力分立概念の独創性を明らかにする。それによって、議会改革論が彼の長年の思想的課題であり、決して自生的秩序論といった他のハイエクの政治思想と矛盾しない、と結論づける。このような論旨によって本論文は、議会が立法権ではなく行政権を行使しているという理解困難だったハイエクの主張を再評価することで、議会の権力は立法権であるとの私たちの多くにとっての自明の前提に挑戦する含意を持つ。

《公募論文》
  • ―法律顧問ピゴットの答議を中心に
    原科 颯
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_225-1_247
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     本稿では、近代日本の立憲君主制を制度上確定させた大日本帝国憲法(明治憲法)の制定に際し、イギリス立憲君主制の諸相が法律顧問ピゴットの答議などをもとに検討された過程を考察した。

     明治20年から21年にかけて、在野では大隈重信の去就と相まって議院内閣制導入への期待が昂進する中、憲法制定を主導した伊藤博文にもイギリス憲法の導入可能性を精査する意図が存在し、かかる目的のためピゴットが招聘され、その答議が憲法起草の最終局面で参照された。結果、明治憲法の定める大臣輔弼の原則についてはイギリスの学説が摂取されたものの、大臣の対議会責任、議院内閣制・連帯責任制、緊急勅令の免責法による承諾といったイギリス立憲君主制の議会主義的側面や「君臨すれども統治せず」の理念は概して否定されることとなった。それは、等しく立憲君主制でありながら、一方は天皇主権、他方は議会主権とその主権原理を異にする日英の相剋に正対した憲法起草者による一つの結論でもあったといえる。

     しかしながら、以上はいずれも、明治14年政変時の政体構想にみられるような非イギリス主義としての総括を許さない、憲法のモデル論からは解放された選択的な受容のあり方だった。ピゴットの招聘さえもたらした明治国家形成の歩みは、決してイギリスモデルの単線的な排撃の過程として把握しうるものではなかったと考えられる。

  • ―規制改革をめぐる政策争点を単位としたデータセットによる検証
    安田 泉穂
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_248-1_272
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     利益団体はどのような条件でロビイングに成功するのだろうか。本研究は規制改革に関する多数の政策争点の観察を通じて、争点レベルの要因がロビイングの成功と関係していることを明らかにする。本研究では、内閣府が公表する、団体等による規制改革に関する提案とそれに対する対応可否を記した省庁による回答の資料を用いて、政策争点を単位とするデータセットを作成した。これを基に、類似の提案を行う団体、即ち同じ政策目標を持ってロビイングを行う団体間の連合に注目し、その特徴と、提案に対する回答との関係を分析した。分析の結果、類似の提案を行う団体に主要な経済団体が含まれるとき、その提案は政策決定者内で検討され、類似の提案を行う団体に多様な利益を有する様々な団体が含まれるとき、その提案は政策に反映される傾向が見られた。規制改革分野において同じ目標を持つ団体間の連合は、アジェンダ設定の段階では主要な経済団体を含む場合に成功し、政策決定の段階では多様な利益を含む場合に成功する可能性が高いことが示唆される。

  • 松林 哲也
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_273-1_296
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     本稿は地方と都市の投票率差が1990年代に縮小したことに注目し、その背後にある原因を探る。原因として取り上げるのが選挙制度改革である。有権者あたり議席数が多い地方の選挙区ほど投票率が高かったが、1994年の選挙制度改革を通じて有権者あたり議席数が地方で大きく減ったことで投票率が低下し、それに伴い地方と都市の投票率差が縮小したという仮説を立てる。選挙制度改革前後の衆院選における選挙区レベルの有権者あたり議席数と市区町村レベルの投票率を用い、これらの仮説を検証する。

  • ―一般化合成統制法(Generalized Synthetic Control Method)による効果検証
    善教 将大
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_297-1_319
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、利便性の高い場所に設置された期日前投票所が投票率に与える影響を明らかにすることである。期日前投票所数と投票率の関係については既に先行研究で分析されているが、投票所が設置されている場所が考慮されていないなど課題も残る。本稿では、2020年11月1日に大阪市で投開票が行われた住民投票で設置された臨時期日前投票所に注目し、利便性の高い場所に設置された期日前投票所が投票率に与える影響を一般化合成統制法で推定した。分析の結果、臨時期日前投票所の設置は有意に投票率を押し上げる効果があることが明らかとなった。設置日数により効果の大きさは異なるが、わずか1日しか設置していない此花区においても、1ポイント前後、臨時期日前投票所の設置により投票率は向上した。本稿は、先行研究以上に頑健性の高い、期日前投票所と投票率の因果関係に関する知見を提示するものであると同時に、実践的観点から見ても重要な知見を提示するものである。

  • 竹中 勇貴
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_320-1_343
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     日本の地方政府における首長は、条例や予算をはじめとする議会の議決事件について、議会の議決なく決定できる専決処分という権限を与えられている。専決処分は、阿久根市の問題のように首長が議会を迂回して政策を実現しうる制度であるとして批判されることも多い。他方で、大半の専決処分は首長と議会の間でほとんど論争とならない。それでは、全体として専決処分は首長と議会の関係にどのように左右されているのか。本論文は1990年代以降の都道府県を対象に明らかにする。

     本論文では、議会の議決事件の中でも条例・予算以外の執行権に属する事案については、専決処分が議員にとってその事案を審議するための時間や労力を節約できるなど利益になりうること、また知事にとっては専決処分が必ずしも有権者から広く支持されないことなどを論じる。そして、条例・予算以外、特に訴訟関連と損害賠償の専決処分はむしろ知事の選挙前連合(いわゆる相乗り)が大きくなるほど増えることを定量的に示す。本論文の知見は、知事が議会と協調的な関係を構築するために執行に関する事案を処理するという、これまであまり注目されてこなかった専決処分の使われ方を示唆する。

  • 松谷 朗
    2023 年 74 巻 1 号 p. 1_344-1_366
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

     1878(明治11)年の三新法制定により実現した地方自治制度は、日本において、国と地方を通じて最初に具体化された民主主義的制度であった。住民代表で構成された地方議会が制度化されて予算と賦課に関する審議を行うことになり、政府任命の地方官は、府県会での審議を通じて、府県管下人民一般の「あるべき府県庁」について説明責任を果たさなくてはならなくなった。このような負担を伴う制度の導入が、いかにして政府において決定されたのかを解明することが、本研究の目的である。本研究では、Hall 2010の整理に基づき歴史的制度論を統合した理論的枠組みを使った制定過程の分析により、① 従来の通説が想定していたような政権担当者の一体性は認められず、藩経営の経験に基づき道具的確信を持って地方自治制度の創設を推進する推進派と、そのような確信がない消極派の対立があったこと、② 伊勢暴動と西南戦争を通じて、推進派が理解者を拡大しつつ制度創設の方向を確定させ、譲歩してもなお反対する消極派を最終的に押し切る形で対立が解消された結果、制度化が実現したことを明らかにした。

《書評》
feedback
Top