年報政治学
Online ISSN : 1884-3921
Print ISSN : 0549-4192
ISSN-L : 0549-4192
〔公募論文〕
影響を受ける者が決定せよ
―ステークホルダー・デモクラシーの規範的正当化―
松尾 隆佑
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 67 巻 2 号 p. 2_356-2_375

詳細
抄録

集合的自己決定としてのデモクラシーには, 決定の主体たるべきデモスの境界画定という根本的な決定を民主的に行うことの困難が伴う。本稿では, こうした 「境界問題」 を解決する指針として, 決定の影響を被る者によってデモスを構成するべきとする 「被影響利害原理」 が有力であることを論じ, この原理に基づく 「グローバル・ステークホルダー・デモクラシー (GSD) 」 の構想を検討することで, 新たな民主的秩序化の可能性を示す。被影響利害原理の解釈は, 1) 影響の意味, 2) 影響の不確定性, 3) 影響を被る者への発言力の配分, などをめぐって多様でありうるが, GSDは, 諸個人の自律を脅かすような影響を蓋然的にもたらす国家的・非国家的な公共権力を, 等しい発言力を認められたステークホルダー間の熟議により統御すべきとする立場である。被影響利害原理に基づく場合にもデモスの境界をめぐる争いは避けられず, GSDが主権国家秩序に取って代わりうるわけでもないが, その制度化は従来の法的デモスに加えて, 機能的・多元的なデモスを通じた集合的自己決定の回路を新たに整備するものであり, より適正な境界画定を導く構想として規範的に擁護しうる。

著者関連情報
© 2016 日本政治学会
前の記事 次の記事
feedback
Top