本稿は, 日本の有権者に関して, 社会志向の経済評価が政府への支持, 投票選択に与える影響を測ることを目的とする。経済投票の研究においては, 社会志向の経済評価と各種の政治的な支持の間の内生性が指摘され, 経済評価の効果が実際には限定的であるとする経済投票修正主義 (the revisionism of economic voting) の知見が提示されてきた。本稿では, サーヴェイ実験によって外生的にもたらされた雇用に関する予測値を操作変数として利用し, 内生性の問題に対処する推定を試みる。操作変数を含んだモデルの推定からは, 内閣への支持に対して, 社会志向の経済評価が政党支持よりも影響を与えていることが示される。投票選択に関しては, 政党支持の効果量が各種の変数の中で最も大きいものの, 与党支持者, 及びそうではない回答者の場合にも, 社会志向の経済評価が政権与党の候補者への投票を促していることが明らかになる。これらの結果より, 経済投票修正主義とは異なり, 日本の有権者にとって経済分野にかかわる社会的なレヴェルでの評価が, 政治的な態度形成・意思決定において重要な意味を持つことを強調する。