年報政治学
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〔特集〕 政治と司法
わが国における司法権独立の実態を考える:
その歴史的評価と現状
安原 浩
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2018 年 69 巻 1 号 p. 1_13-1_23

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抄録

歴史的に見て, 政治と司法の間には常に緊張関係が存在した。戦後, 司法行政はすべて最高裁判所の裁判官会議が所管することが憲法上明記されたため, 戦前とは異なり行政機関や立法機関が裁判所の予算や人事に直接介入することは制度的に不可能となった。

 ところが, 1960年代から1970年代にかけて, 公務員の労働基本権の制限などの違憲性をめぐって時の政府と最高裁が鋭く対立する事態が発生した。政権側の偏向判決批判に対して最高裁は司法の独立に対する介入は許さないという立場を堅持しつつ, 他方で青年法律家協会などの団体への裁判官の加入を露骨に規制する方針をとった。外部からの圧力に変わって, 裁判所内部の自主規制という内部的な圧力が裁判官の独立や気概を損なう危険が発生したのである。その結果, 1990年代になって, 最高裁長官がそれを慨嘆するほどになった。

 近年の憲法をめぐる種々の厳しい論争は, 再び政治からの介入の危険を予期させている。最高裁裁判官を任命する内閣が, その任命権を濫用しないようにするための方策, 下級審の裁判官が自己の良心に従った判断をできるようにするための方策など, 裁判官の独立の実態に即した改革が急務である。

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