本稿は、行為遂行的な主権が生きている台湾の政治理論の分析を通じて、主権そのものの存在に関する説明を終えたとする現代政治理論に対抗して、主権論の意義を再検討する。その際、1970年代の台湾の主権的地位の歴史的な変化や80年代以降の民主化運動の中で蓄積された主権論を読み解くとともに、近年のヒマワリ運動にも伏在する主権概念を明確化する。第2節では、20世紀後半を通じて、台湾の主権論がどのように形成されたのかを追体験しつつ、国民主権論の定着を確認する。第3節では、主権論におけるマイノリティ問題への論及を皮切りに、ポピュリズムとの格闘という世界史的なテーマに対する固有の切り口や、中華圏での民主化運動とのつながりを確認し、台湾主権論が提起する理論的成果を明らかにする。本稿では、台湾主権論における行為遂行的な側面の強靱さと、それが実効的な民主主義と政治共同体の自立性とを同時に正統化する根拠となっている点を指摘する。