2023 年 74 巻 1 号 p. 1_178-1_201
英国の政治システムにおいて、議院内閣制と二院制は基幹的な制度であり、いずれもが漸進的に形成されてきたものである。そして、議会下院である庶民院の信任を基礎とする単独過半数内閣への執行権の集中という特徴を有する多数派型デモクラシーの中で、議会上院である貴族院の存在意義が問われてきた。現代の貴族院は、世襲貴族の大多数が排除され、一代貴族が中心の任命制の上院となっている。貴族院の公選化に先立ち議会期固定の制度化もなされたが、公選議員を導入する貴族院改革法案の頓挫を経て、首相の裁量的解散権も復活するに至っている。貴族院の影響力としては、市民的自由、憲法的妥当性に関する政府敗北という法案修正に見ることができる。貴族院の存在意義としては、抑制と均衡、補完、熟議ということに引き継がれている。そこでは、現代の貴族院が非公選であるがゆえに庶民院に比して専門性が高く、全体として非党派的な議院であるという積極的な評価をすることができる。現在の貴族院が有する正統性としては、「入力上の正統性」、「手続上の正統性」、「出力上の正統性」があるとされる。その背後には、民主的正統性とは異なる「専門知による正統性」が存在するといえるであろう。