2023 年 74 巻 2 号 p. 2_131-2_152
本稿は、メディア・リテラシーの視点から「リップマン゠デューイ論争」を再考し、両者の思想的対立軸を1920年代における「世論」デモクラシーをめぐる見解の相違ではなく、1930年代における言論の自由をめぐる認識の隔たりにあることを明らかにするものである。
「リップマン゠デューイ論争」についてこれまでの研究では、エリート論者リップマン対民主主義論者デューイという対立構図で両者の思想的隔たりが強調されてきたが、近年ではそうした対立構図に基づく「論争」の捉え方に疑問が呈されている。本稿は第一に、後者の「論争」懐疑論の立場に立ち、リップマンの公衆啓蒙論やファクト・チェック論に注目することで、1920年代における両者の思想的親近性を示す。第二に、1930年代以降における両者の議論の変質を辿り、この時期における言論の自由と企業メディアの在り方をめぐって「論争」と呼ぶべき思想的対立が存在することを明らかにする。1930年代以降、政府と市場、個人と集団をめぐって、リップマンとデューイの思想的相違は顕著となっていくが、そうした思想的対立がメディアとデモクラシーをめぐる考察にも表れていることを論証する。