2021 年 61 巻 1 号 p. 5-12
焼戻マルテンサイトの強化機構に及ぼすVの効果を解明するため,Fe-0.2 mass%C-0.5 mass%Si-2.5 mass%Mn-(0- 0.82)mass%V 鋼の水冷材と焼戻し材を対象に,引張試験により降伏強度を求め,組織観察,析出物観察,転位密度評価を行った。0.82 mass%Vの析出強化量の算出に際し,母相フェライトとBaker-Nuttingの方位関係を持つ板状VC について,すべり面上での形状とサイズを求め用いた。その結果,0.82 mass%Vの添加による焼戻し材の降伏強度の上昇は,VCの析出強化と,高転位密度による転位強化で主に説明できることが明らかになった。さらに,析出強化機構としてOrowan機構のみが働いていると仮定すると,析出強化量が過大評価される可能性が示された。