抄録
経頭蓋超音波法 (TCD) において特徴的な音を伴って検出されるhigh intesity signalは, これまでの動物実験や臨床研究により気泡性か固形成分の微小塞栓子であることが確認されている.検出される微小塞栓子の大部分は無症候性であるが, 塞栓源の活動性や部位の同定の助けとなり, またその検出例での塞栓症発症頻度の増加に関する知見も得られている.本検出法を発展させていく意義は, 塞栓症に対する予防的治療を行うべき患者の選別に利用できるかと言う点にあるといえよう.本検出法が今後解決すべき問題点として, 微小塞栓子の性状鑑別がある.これまでに心臓機械弁置換患者において検出される微小塞栓子は大部分気泡成分であるとする報告がある.著者らも, 機械弁置換患者に酸素を吸入させるとembolic signal (以下ES) 数が顕著に減少し, 同患者におけるESがほとんど気泡性であることを報告してきた.本論文では対象を広げ, 血管原性塞栓症患者の塞栓子が非気泡成分であることを証明することを目的としている.
機械弁患者20例, 塞栓源となる血管病変を持っ患者78例, コントロール20例に対して, 室内空気下で30分間, 酸素吸入 (6L/min) フェイスマスク下で30分間, 中大脳動脈または後大脳動脈をTCDによりモニターし, ESを検出した.機械弁患者では酸素非吸入下に比し吸入下で有意にESが減少したが (144 versus 63; P=.002) , 有血管塞栓源患者では, 有意な減少を認めなかった (145 versus 135; NS) .コントロール群ではESを検出しなかった.
機械弁患者においては機械弁周囲に気泡形成 (cavitation) を認めることが明らかにされているが, 酸素吸入により血中の酸素分圧が上昇すると, 気泡形成が抑制されるとともに, 形成された気泡もすばやく再溶解し, 循環血液内への気泡の流入も減少する.機械弁患者のESは酸素吸入時に減少することにより, 大部分気泡成分であると言える.一方, 血管に塞栓源を有する患者においては, 酸素吸入でESが減少せず, 同患者でのESが気泡性ではなく, 血栓や粥腫由来の固形成微小栓子であることが証明された.
酸素吸入という単純な操作が, TCDにより検出される微小塞栓子の性状解析の一助になることが明らかにされた.