Neurosonology:神経超音波医学
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脳梗塞患者での発症早期の総頚動脈血流動態と予後との関連
福井 理恵山野 繁山本 雄太南 繁敏高岡 稔野村 久美子土肥 和紘
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1998 年 11 巻 3 号 p. 107-112

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抄録

大動脈弓部の動脈硬化性病変 (プラーク) は, 脳梗塞の塞栓源のひとつと考えられている.経食道心臓超音波検査法 (TEE) は大動脈プラークを確認するため脳卒中患者に日常的な検査として行われている.ところが, TEEは比較的侵襲的な検査であり, 全ての患者が耐えうるわけではなく, また, 遠位上行大動脈や大動脈弓部では気管支が障害となってよく観察されないこともある.
Bモード超音波検査法は, 頸動脈のアテローム性動脈硬化病変の評価法として既に確立され, 脳梗塞の塞栓源として病変の組織性状との関連も研究されているが, 最近の研究では大動脈弓部のプラークの観察にも使われてきている.筆者らは, 20人の患者で経皮的Bモード超音波検査法によって鎖骨上窩外側部よりの大動脈弓部の画像化を試み, その結果をTEEと比較した.大動脈を近位上行大動脈, 遠位上行大動脈, 近位大動脈弓, 遠位大動脈弓の4ヵ所に分け, プラークを確認した.プラークは性状により単純病変 (<4mm) か複合病変 (>4mm) かに分けた.
結果は, 近位上行大動脈において単純プラーク8個がTEEで同定されたが, Bモード法では確認されなかった.遠位上行大動脈においては複合プラーク1個が両検査法で確認されたが, さらにBモード法で複合プラークと単純プラークが1個づつ認められた.近位大動脈弓では, 単純プラーク6個と複合プラーク5個が両検査法で確認されたが, さらにTEEで複合プラークが1個認められた.遠位大動脈弓では, TEEで単純プラークが2個と複合プラークが2個認められ, Bモード法で複合プラークが3個認められた.
Bモード法は, TEEと比べても遠位上行大動脈から大動脈弓にかけてのプラークの観察に遜色ないが, 近位上行大動脈における単純プラークは確認が困難であった.しかし, 遠位大動脈弓では, TEEで観察されないプラークがBモード法で描出される場合も見られた.Bモード超音波検査法は, 大動脈弓部のプラークを総合的に評価する際にTEEの補足的な役割を果たし, 描出されたプラーク病変を連続的に観察する際には特に有用な非侵襲的な検査法であるといえる.
組織プラスミノーゲン活性化因子の超急性期静脈内投与は脳卒中の予後を改善し得るが, 広範な神経脱落症状を伴う中大脳動脈 (MCA) 主幹部閉塞による大梗塞にその効果はあまり期待できない.適応症例の迅速な選択が必要だが, CTによる病巣評価は超急性期には困難である.一方, 頭蓋内主要血管が開存しているか否かは病状の初期予後を左右するが, 血管撮影には時間がかかり侵襲的でもある.急性期患者にMRアンギオグラフイーを施行するのはしばしば困難であり, 経頭蓋超音波ドプラ法 (TCD) は血管閉塞の診断能に問題がある.経頭蓋カラーデュプレックス超音波法 (TCCD) はこういった状況を変える可能性があるが, 血流信号の増強なしでは信号検出能が低く, 診断に応用できない場合も多いものと思われる.筆者らは虚血性脳卒中急性期における造影TCCDの診断上の有用性を検討し, また, 本法により評価し得た血管病変が予後を予想する上で臨床的に重要かを検討した.この論文では, 神経症状発症から5時間以内に臨床評価, CT, 超音波法が施行された連続23例の頸動脈領域脳卒中患者が提示され, TCD, 非造影TCCD, 造影TCCD (Levovist, 4g, 300mg/mL) について, MCA閉塞と血流速低下を検出する能力が比較された.ここで, MCAの血流速低下はその潅流領域における血行動態障害を示唆するものである.神経脱落症状はNIH Stroke Scale scoreを用いて定量化され, 入院4日目にscoreが4点以上低下した場合, または, 脱落症状が完全に消失した場合をもって症状の初期改善と定義された.造影TCCDを用いた場合, 20例の患側大脳半球にて頭蓋内血管病変の診断が可能であったが, 非造影TCCDまたはTCDを用いた場合ではそれぞれ7例と14例にて明確な診断がなされた (P=0.0001) .造影TCCDは内頸動脈遠位閉塞 (carotid-T occlusion) の評価に優れており, また, 閉塞主要動脈を血流速が低下した開存動脈から鑑別する点でも優れていた.造影TCCDに要する平均検査時間は, 検討する血管数 (MCA分枝を含むか否か) により5~7分であった.ロジステイック回帰分析の結果, MCAが血流速の低下なく開存していることは, 症状の初期改善を予想する唯一の独立因子であった (P<0.01) .以上の結果より, 造影TCCDは頸動脈領域脳卒中の初期予後を評価する上で将来性のある検査法であり, それは非造影TCCDやTCDよりも優れていると筆者らは考えている.

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© 日本脳神経超音波学会
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