次世代薬理学セミナー要旨集
Online ISSN : 2436-7567
2022 札幌
セッションID: 2022.1_AG-4
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認知症によりそう脳科学
*福永 浩司
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抄録

認知症患者数が2025年には700万人を超える。認知症の原因疾患としては50%がアルツハイマー病、15%はレビー小体病(パーキンソン病を含む)である。世界では抗体医薬をはじめ根本治療薬の開発にしのぎを削っている。私達の研究では早期認知症患者であれば既存の治療薬のリポジショニングで認知症への進行を抑止することができる。新規の低分子薬の新薬開発になると多額の開発費用と時間が必要である。私達も、アルツハイマー病治療候補薬としてカルシウムチャネル活性化薬であるSAK3の前臨床試験を行い、製薬企業への導出を模索している。SAK3はT型カルシウムチャネルを活性化して、神経伝達を促進することで認知機能を高める化合物である。さらに、海馬における神経新生、アルツハイマー病の原因タンパク質であるβアミロイドの分解を促進することで脳機能を維持することができる疾患修飾治療候補薬である。同様にレビー小体型認知症に対しては脂肪酸結合タンパク質(FABP)阻害薬を開発中である。私達はレビー小体型認知症の原因タンパク質であるシヌクレインが毒性の高いオリゴマーを形成する際に、FABPと会合すること、FABPはシヌクレインオリゴマーの神経細胞間の伝播にも関与することを見出した。FABP阻害薬はシヌクレインのオリゴマー形成と神経細胞への取り込みを阻害することでシヌクレインの伝播と神経細胞死を抑制した。SAK3とFABP阻害薬は認知症の進行を抑止することができる。認知症の早期診断と疾患修飾治療薬を組み合わせることで、健康脳長寿社会を実現できる。アカデミア発シーズの製薬企業への導出は極めて困難である。その理由としては画期的な作用機序と化学構造を持つFirst-in-class の薬でなければ大企業への導出は難しい。しかし、アカデミアでは脳科学を基礎とした新薬開発、リポジショニングへのチャレンジを続けるべきである。高齢化社会を迎える我が国において、認知症を予防する治療薬の開発状況を紹介する。

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© 2022 本論文著者
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