日本文学
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平家物語序章論 : 歴史の論理と物語の論理(<特集>虚構の時空)
兵藤 裕己
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1986 年 35 巻 1 号 p. 9-24

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抄録
相反する二つの論理が、位相を異にしながら平家物語で重層する。それはまず、序章に仕組まれた王権因果論と、無常感の印象である。作品の次元でいえば、歴史と物語、日常と非日常、中央と辺境であり、成立論的にいえば、モノの鎮めと鎮まらざるモノの語り、寺院権門とそれに隷属する語り手、すなわち文字と語りの問題に位相的に重なり合う(平家物語が語りと文字の出会いの文学であるとは、じつはその危うい<歴史>モノ語りの構造と不可分の問題であった)。そしてにもかかわらず、平家物語が(最終的には)語り手の側に属する以上、語り手の側の論理は深層から作品をささえている。物語の<歴史>書的な外皮が内側から相対化され、史実と虚構日常と非日常という二元的境界が反転する。それは平家物語の作品構造であるし、文字テキストを不断に変形・相対化するモノ語りの論理であった。
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© 1986 日本文学協会
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