日本文学
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愛別離苦と「平家物語」の語り : 覚一本「平家物語」の表現をめぐって
生形 貴重
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1986 年 35 巻 1 号 p. 50-61

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抄録

覚一本は、「平家物語」の完成と評価されるが、表現の世界において、いかなる世界を顕現させたのか。その多様な達成の中から、本稿では、愛別離苦の説話から成る物語群(成親・維盛・宗盛・重衡の物語)を、取り出し、当道系諸本の古態とされる屋代本との対照を通して、それを考える。愛別離苦のこれらの物語を検討すると、覚一本は、方則的にある傾向を示す。それは、物語の構想を表現のレベルまで鮮明化する点と、物語の主人公の「死」を、物語世界の人々が共有しあうという時空を創出する点である。それはまた、素材としてあった説話的世界の基盤となる宗教的時空を、物語固有の世界に物語の状況として描くことでもあり、八坂系諸本をも視野に入れるとき、検校衆の芸術的力量がそれを支えたものと考えられる。今後、現在の諸本研究の成果をふまえて、どう物語を読むかという問題への私論でもある。

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© 1986 日本文学協会
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