日本文学
Online ISSN : 2424-1202
Print ISSN : 0386-9903
『こゝろ』という掛け橋
田中 実
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1986 年 35 巻 12 号 p. 1-13

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抄録

『こゝろ』は、まず「先生」の遺書を「私」が編集引用して作中の<読者>に向けて書かれたものであることに注目したい。「先生」はKを裏切ったが、「私」もまた図らずも両親を裏切ってしまった。そこに「私」の新たな「先生」への発見が可能になった。すなわち、観念的美学に生きた「先生」の「唯一の希望」は「私」によって裏切られるが、それは「明治の精神」に殉じた「先生」の時勢遅れの精神(=遺書)を次の時代(ポスト明治)に再生させるためのものであった。『こゝろ』は「先生」と「私」の、またその「私」と手記の<読者>の、さらに漱石とその<読者>との、心の掛け橋だったのである。

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© 1986 日本文学協会
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