日本文学
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『正法眼蔵随聞記』の法語性
正野 泰周
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1991 年 40 巻 7 号 p. 10-17

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抄録

『正法眼蔵随聞記』は、道元が宋国より帰国し、深草の地に興聖寺をひらいた嘉禎年間に懐弉その他との間にかわされた問答の記録である。その内容は、俗にたいしては出家を促し、出発したばかりの建仁寺僧団にはあらためて僧の心構えを説き、また道元にとっては『正法眼蔵』著述の前哨でもあった。さらに懐弉には道元の思想の確認という意味もあった。『正法眼蔵随聞記』でいわれていることは、「眼前の道理」としての「無常」を自覚し、吾我・名利をすて、貧欲をはなれ、仏意に順う=古仏の行履による、というものである。これにたいして『正法眼蔵』は、道元の世界のいわば理論的達成である。『随聞記』は、問答体からくる臨場感をふくむ具体的な場面性を特徴とする。『正法眼蔵』は示衆という一方向のもので、この点でも異なるが、内容としては相補的な関係にある。また「道理」という言葉はともに多用されるが、割合では『随聞記』のほうが多い。

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© 1991 日本文学協会
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