1995 年 44 巻 7 号 p. 78-88
大祓は国家的儀礼であり、現神としての天皇が治める国家から神話的な罪や穢れを除き、祓い清めると考えられた。六字河臨法は大祓で唱える祝詞を改変した中臣の祓を唱え、特定の個人が別の個人を呪詛した場合、その呪いを元の個人に返す儀礼である。その場合に、大祓を原型とする呪文を唱えることは、呪いを返す儀礼には適さず、矛盾を生じる。『吉備大臣入唐絵巻』は、同時代に作られた他の絵巻と対応するようにして、この矛盾を克服し、国家に制約されない呪的儀礼の世界が新しく形成されてゆくことを示す。