1997 年 46 巻 7 号 p. 30-39
碩学の誉れたかい浄土宗第七祖了誉聖冏は、その『古今序註』において、「ヤマトコトバハ本、神代ノ語ナレバ梵音ノマヽ也」とする、現在のわれわれの言語認識とは隔たった、特異な和語観を披瀝している。だがそれは決して例外的な認識であるのではなく、類似した言説を中世のテキストからいくつか拾うことができる。これらの検討によって、〈天上の梵言〉=和語という認識の背景に、文字の根源を倒錯的に夢想する特異な有りようや、梵天思想に立脚した新たな神話トポス創出への動向を読み取ることが可能だと思われる。