2004 年 53 巻 7 号 p. 1-10
平安文学において<音>は、どのような場面に、どのような意義を付与されて表現されているだろうか。本稿は、そうした問題について基本的な考察を試みる。具体的には、『古今和歌集』仮名序の冒頭部にあらわれる「花に鳴く鶯、水に住むかはづの声」をはじめ、『紫式部日記』冒頭部にあらわれる「不断の御読経の声々」「例の絶えせぬ水のおとなひ」といった<音のある風景>をとりあげる。そして、これらの<風景>が、当時の貴族の屋敷と庭園に込められた思想を色濃く反映していることを明らかにする。