2007 年 56 巻 11 号 p. 68-76
まず、この作品の背景にある郊外の核家族という、戦後の日本において作り上げられ、定着していった新しい家族形態が、家族を構成する人間にどのような幻想/理想郷を抱かせたのか、またその反動としてどのような問題が新たに生じてきたのかを考察した。親と子による二世代間の閉塞された家族関係がはらむ問題のひとつとして、心を育てる言葉の受けとめての不在を挙げ、自己を構築していく上で、親子という一方向的で固定的な関係から逸脱し、主人公にとって横の関係かつ異性である女性を通してどのように自己を構築し、受け入れていったのかを論じた。