日本文学
Online ISSN : 2424-1202
Print ISSN : 0386-9903
「樊[カイ]」残影 : 中国小説との距離
高田 衛
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 58 巻 1 号 p. 50-57

詳細
抄録

上田秋成『春雨物語』の中の雄編「樊[カイ]」は、文化五年本によって下編が発見され、終局の悪人回心譚による結末のため、物語としての評価が落ちた感がある。この「樊[カイ]」の大蔵(だいぞう)というヒーローには、この話が近世の<現代小説>であるにもかかわらず、古怪で野性的で逞しいイメージがあるが、このイメージは、従来いわれていた『水滸伝』以外の、具体的には『西遊記』の怪猿孫悟空の影が隠微に反映している。本論は「樊[カイ]」と『西遊記』の、知られなかった関係性を具体的に検証しつつ、両者の距離をはかり、秋成の方法が、みずから引用した悪人回心譚を、物語の実質上は、骨太な聖・魔合一譚に転化し、ひとりの人間が自然人的古態から、侠勇なる男(傑僧)にまで成長するフィクションの創造に成功したことを述べる。

著者関連情報
© 2009 日本文学協会
前の記事 次の記事
feedback
Top