日本文学
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「扇の的」考
――「とし五十ばかりなる男」の射殺をめぐって――
今井 正之助
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2014 年 63 巻 5 号 p. 54-64

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抄録

中学校2年国語「扇の的」は、与一の技量および敵味方が称賛するすばらしさ((『平家物語』巻一一「那須与一」)から、与一を称賛して舞い出た平家方の「老武者」を射殺する場面(「弓流」)を加え、戦の非情さを考えさせることに力点がうつり、その方向に各教科書会社の足並みが揃いつつある。しかし、「老武者」は扇の的を立てた船に乗り組み、義経狙撃を企む一員であった可能性が高い。善良な老人を冷酷に射殺したと受けとめることは誤っている。また、義経は、敵は一人でも生かしておくわけにはいかない、と考え、与一に射殺を命じた、とみなされている。しかし、『平家物語』の義経の行動原理からはそのような理解は成り立たない。「老武者」が扇が立ててあった場所を占拠して舞を舞い、主役の座を奪うかの行為をしたことに対して、義経は激しく怒り、与一も同じ思いで矢を放った。

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