日本文学
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特集・〈第三項〉と〈語り〉――ポスト・ポストモダンと文学教育の課題Ⅲ
新美南吉「狐」の教材価値
――母を語る眼差し――
成田 信子
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2014 年 63 巻 8 号 p. 25-35

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抄録

読むことの原理として、主体と客体という二項の関係では「客体そのもの」には永遠にたどりつけない。そこで田中実は、原文という〈第三項〉を仮設し、読者は〈第三項〉すなわち「客体そのもの」の〈影〉にうたれて、「客体そのもの」の意味や価値を見出すと提唱する。この原理は、〈近代小説〉の〈語り〉によって論じられてきた。しかし須貝千里の言う「〈語り〉を語り、語られる関係として問うこと」は、小中学校で従来教材に取り上げられてきた物語、童話でも考えられなければならない。本稿では、新美南吉の「狐」の読み方を取り上げて、「「狐」そのもの」の意味や価値を明らかにしようとする。「狐」の一節から五節までの全知視点的な〈語り〉に比して、六節の〈語り〉は、文六と母親の会話を自律的に運び、母を語る眼差しを浮上させている。この眼差しに語られる母親像は、子どもを思いやり、包み込む母親像ではなく、自らの言葉を繰り返し、自らが「なしになってしまう」状況に立ち尽くす孤独な母親像である。

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© 2014 日本文学協会
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