大阪府を中心とする近畿方言には,「親愛の情を表す」とされるヤルという素材待遇形式がある。本稿では,待遇表現が話し手による関係把握の表現であるという立場に立ち,大阪府八尾市方言話者のデータをもとに,ヤルの〈機能〉を明らかにした。すなわち,ヤルは,話題の人物が話し手と〈ウチ〉の関係にあり,聞き手もまたその〈ウチ〉の関係にあるという話し手の認識を表す。このような,素材に言及することで聞き手との〈ウチ〉の関係を示すヤルの〈機能〉は,ハルをはじめ,対象を遠隔化する〈機能〉のみを持つ日本語の敬語の中において注目に値する。