日本語の研究
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最新号
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  • 多田 知子
    2025 年21 巻1 号 p. 1-17
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー

    「わけだ」は「のだ」と同じくコトガラに対する話し手の認識的なモダリティを表す助動詞相当の複合辞である。動詞「わける」の連用形名詞「わけ」は室町時代から文献に現れるが、それが文末に使われ助動詞相当の機能をもつようになるのは江戸時代になってからである。事情や理由とその結果としての事態を並べて述べるa型と、事態の事情を述べるb型、コトガラを言い換えるc型の用法がある。a型とc型はb型をもとに文法化を経て派生したと考えられる。

    『日本語歴史コーパス』を用いて江戸時代から明治時代への変化を辿る。また、江戸時代には会話文に用いられていた「わけ(だ)」が明治時代以降は文章語(書き言葉)にとりこまれていく様子が観察されることについても述べる。

  • ──非促音のタ・テ・トに現れる子音字tt──
    柄田 千尋
    2025 年21 巻1 号 p. 18-34
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー

    1591年にポルトガル人宣教師マノエル・バレトがローマ字綴りの日本語で書写した「バレト写本」では,非促音であるべき箇所でタ行音タ・テ・トの子音が「tt」で表記されることがある(=タ行二重子音表記,【例】vomotte[面(おもて)],atto[後(あと)])。先行研究では,この表記はアクセントや促音など何らかの音声を表したものと考えられてきたが,本稿は,タ行二重子音表記は当時のラテン語およびポルトガル語の綴りの影響で生じたものであると主張する。「tt」の出現位置には語頭の“att-”の配列,あるいは語末母音直前に現れやすい傾向があり,この特徴は同時代のラテン語・ポルトガル語語彙の「tt」出現位置と合致するうえ,17-18世紀ポルトガル語正書法書の記述とも合致する。また傍証としてバレト写本内部の表記分布も踏まえ,この表記がラテン語の綴りの影響を受けた当時のポルトガル語の表記法の反映であることを明らかにした。

〔研究ノート〕
  • ──direct evidenceを表す〈将然〉用法を中心に──
    高 恩淑
    2025 年21 巻1 号 p. 35-44
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,徳島方言におけるエビデンシャリティの特質を探るため,〈将然〉用法の「シヨル」形を中心に考察を行った。非過去形の「シヨル」は話し手による事態発生の予測を表し,過去形の「シヨッタ」は話し手の経験による反事実的な出来事を表す。主語の人称やテンス,文の表す意味は異なるが,いずれも事態が発生する直前の局面(=「将然段階」)を表すという点で共通している。また,〈将然〉用法の「シヨル」形は,話し手が目撃した出来事の兆候や経験に基づく直接情報を判断根拠としていることから,direct evidence的な表現でエビデンシャリティを有すると考えられる。

    一方,〈将然〉用法における過去形の「シヨッタ」は,発生しかけたが実際には起こらなかった反事実的な出来事に対する話し手の評価が含まれる。よって,過去形の「シヨッタ」は〈将然〉というアスペクト的な意味に加え,エビデンシャリティだけでなくムード的な性質も併せ持つと考えられる。

〔書評〕
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