日本語の研究
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特集1 国際的観点からの日本語研究
  • ──日本語資料としての再評価に向けて──
    白井 純
    2023 年 19 巻 2 号 p. 1-19
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    キリシタン版『羅葡日辞書』にみられる未知語を抽出し、同書のラテン語見出し・ポルトガル語語釈の翻訳によって語義を推定し、語彙史研究上での『羅葡日辞書』の価値を再評価した。

    ラテンアルファベットで印刷された『羅葡日辞書』の日本語語釈に和語が多い理由は、複数の語種を併用する日本語語彙の豊富さに対応すること以外に、同音異義語が多く漢字表記がなければ識別が困難な漢語と併記することで語義を明らかにするという目的があったからである。そのため『羅葡日辞書』は日本語として使用が稀な複合語を多く取り入れているが、これは和語の造語力と語義の透明性を巧みに利用した翻訳の方法であった。

  • ──辞書との関係と相違点を中心に──
    櫻井 豪人
    2023 年 19 巻 2 号 p. 20-36
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    洋学資料における単語集は、17世紀の長崎阿蘭陀通詞によって作られ始めた。18世紀末までは写本の単語集しか存在せず、単語集は辞書の役割も担っていたものと見られるが、寛政八(1796)年刊の蘭日辞書『波留麻和解』と寛政十(1798)年序刊の日蘭対訳単語集『類聚紅毛語訳』が出版されてからは刊本の辞書と単語集が存在するようになり、それ以降、利用のされ方が次第に分化していったものと見られる。その様子を概観した上で、洋学資料における単語集の特徴について、辞書との関係と相違点を中心に論じる。

  • 宮川 創
    2023 年 19 巻 2 号 p. 37-52
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,日本では江戸時代後期,幕末に入る前である1837年にシンガポールで公刊された『約翰福音之傳』(約翰之福音傳:ヨハン子スノ タヨリ ヨロコビ)の翻訳元の言語を特定することである。『約翰福音之傳』は,新約聖書中の四福音書のうち最後の福音書である『ヨハネによる福音書』の日本語訳である。この書は,新約聖書公同書簡中の三つの『ヨハネによる手紙』の日本語訳である『約翰上中下書』とともに,現存する最古の日本語訳聖書であると言われる。これらの書を訳したのは,プロイセン出身の宣教師ギュツラフ(漢名:郭士立あるいは善徳)である。先行研究では,ギュツラフが英語訳あるいはドイツ語訳から『約翰福音之傳』を日本語へ翻訳したと考えられてきた。しかし,本稿では,『約翰福音之傳』の天理図書館所蔵本の翻刻のテキストに出てくる固有名詞を,欽定訳聖書(英語),ルター訳聖書(ドイツ語),Textus Receptus(ギリシア語本文)と比較し,ギュツラフがこれらの人名をギリシア語本文から直接翻訳した可能性が高いことを示す。

  • ──日本語研究者が果たし得る役割──
    庵 功雄
    2023 年 19 巻 2 号 p. 53-69
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    本稿では日本語研究が社会の動きと関わる可能性の1例として「やさしい日本語」という取り組みについて紹介した。今後日本が直面する人口減少社会において外国人の適切な受け入れは不可欠であり、「やさしい日本語」はそのための言語政策としての側面を持つ。マジョリティである日本語母語話者にとって「やさしい日本語」が持つ意味として、日本語でのコミュニケーション能力の向上を挙げた。また、専門家から非専門家への情報提供のあり方の考察を通して「日本語母語話者にとっての「やさしい日本語」」であるプレイン・ジャパニーズ(PJ)の概念を提示し、PJが「日本語の国際化」だけでなく「日本社会の国際化」にも貢献しうることを論じた。最後に、こうした観点から日本語研究者が社会の動きと関わる際に参考にすべき著作として遠藤・渡辺(2021)と林(2013)を挙げた。

  • ──形式、使用数、相互作用における機能──
    ポリー ザトラウスキー
    2023 年 19 巻 2 号 p. 70-88
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    本研究は、田野村(1988)の「ではないか2」を自然談話の「P(述部)ない」「Pじゃん」「Pだろう」に研究対象を広げ、考察する。考察観点は1)研究対象はどのような形式と頻度で用いられるか、2)相互作用にはどのような機能があるかである。乳製品の試食会で観察された約400の「Pない?」は若い女性、若い男性、年上の女性、年上の男性の順で用いられた。若い女性は「A(形容詞)くない?」が多く、主張を表すこともあり、その後相手が「Pない?」を用いる例もあった。年上の女性は「Pない?」の後よく相づちで同意する。談話の展開と発話連鎖における位置により、問いかけ、主張、同意要求、前提条件、理由、話題提供、反論等の機能が見られた。

  • ナロック ハイコ
    2023 年 19 巻 2 号 p. 89-105
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    本稿は二部からなっており、前半では、筆者の編集者や査読者の経験から、査読における採用の基準に主眼をおいて、日本語を対象とした英文による論文と和文による論文の共通点と相違点について論じる(第1節、第2節)。さらに技術的な注意点(第3節)に触れたうえで、後半(第4節)では、筆者が使用している日本語例文のローマ字化及び分かち書き、形態分析のシステムの概要を紹介する。

特集2 2020年・2021年における日本語学界の展望(2)
 
  • ──限定用法の確立──
    古田 龍啓
    2023 年 19 巻 2 号 p. 130-146
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    本稿は,助詞マデが中世後期に獲得した限定用法の特徴を明らかにし,成立過程を考察する。中世後期の当該用法は,名詞・節の両方に後接可能で,事物も事態も限定する。主に述語として用いられ,序列に基づく最下位限定を表す。

    中古の段階では,マデは,連用格助詞と相互承接せず,述語に立つこともなかったが,中世に入ると,これらの例が現れ始める。述語用法は,前期は名詞や指示詞を取る例が大勢を占めたが,後期になると,節を受ける例が急増する。

    「限定」は述部に立つ「限度」のマデから生じた。「限度」は,当該要素を成立範囲の限界点として取り出し,それに至る全要素を含めて示す。他方,「限定」は,当該要素のみを,それ以上はない限界点として取り出す。節を受け,述部で多用されたことで,「限度」のマデが含意する排他性が焼き付けられた結果,限定用法が生じた。

  • ──動詞テ節・ツツ節・ズ節を対象として──
    菊池 そのみ
    2023 年 19 巻 2 号 p. 147-163
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    本稿は〈付帯状況〉を表す節における統語的制約の変化を動詞テ節、ツツ節、ズ節を対象とした用例調査に基づいて明らかにしようとするものである。古代語(上代語・中古語)においては〈付帯状況〉を表す用例として[対象主語─非対格自動詞]という構造の節と[目的語─他動詞]という構造の節とのいずれも見られるのに対し、現代語においては後者のみが自然な表現であるという点で変化が生じていると言える。これを踏まえ、本稿では用例調査に基づいて節内に対象主語を含む非対格自動詞テ節の用例は中世前期まで、同じくツツ節、ズ節の用例は中古まで見られることを明らかにした。また、この現象について従属節分類における位置づけを検討した上で、当該の統語的制約の変化が日本語における活格性の喪失という変化を反映したものである可能性があることを指摘した。

  • 三宅 俊浩
    2023 年 19 巻 2 号 p. 164-180
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    中世のデハカナフマジ>イデ(ハ)カナハズについて以下の点を明らかにした。

    ①中世前期,出現当初はデハとカナフマジが別々に機能し〈条件+不可能〉を表す複文であったが,可能文の語用論的特性が影響し,〈必要条件〉を表す複合辞へ変化した。次いで目的事態のない〈非条件的必要〉へ,中世後期には〈必然〉へ意味拡張した。②中世後期には,デハからイデハへ,否定辞における非推量形の出現,イデハ終止の出現,イデカナハズ・イデモカナハズの出現,などの形態面でのバリエーションや変化が見られる。これらの成立経緯を推定するとともに,こうした現象はデハカナフマジ>イデ(ハ)カナハズが(イ)デハ条件文の一種と認識されていた段階から次第に(イ)デハ条件文として認識されなくなっていく過程を反映していると解釈した。

  • ──不規則動詞を中心に──
    陶 天龍
    2023 年 19 巻 2 号 p. 181-197
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2024/02/02
    ジャーナル フリー

    宮古語諸方言においては,規則動詞は2種類あるが,不規則動詞の認定は方言ごとに異なり,規則動詞と比べて不規則動詞がどのような特殊な点を持ちうるかについての記述は見られない。また,複数の語幹を持つことが不規則動詞を認定するための1つの基準になりうるかは,研究によって異なる。そして,不規則動詞の認定に大きくかかわる語幹・(非)拡張語幹・(非)拡張形の従来の定義,および活用形の構造の従来の分析を久松方言に適用すると,いくつか不都合の点が生じる。

    本稿では,久松方言の1次データを用いて,語幹・(非)拡張語幹・(非)拡張形を再定義し,動詞活用形の構造を「[[①非拡張語幹(-②語幹拡張辞)](+③形態音韻規則)]-④屈折接辞」と分析する。そして,規則動詞における①から④の条件の規則性を定め,少なくとも1つの条件に例外がある動詞を不規則動詞とすることを主張する。

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