本稿では,徳島方言におけるエビデンシャリティの特質を探るため,〈将然〉用法の「シヨル」形を中心に考察を行った。非過去形の「シヨル」は話し手による事態発生の予測を表し,過去形の「シヨッタ」は話し手の経験による反事実的な出来事を表す。主語の人称やテンス,文の表す意味は異なるが,いずれも事態が発生する直前の局面(=「将然段階」)を表すという点で共通している。また,〈将然〉用法の「シヨル」形は,話し手が目撃した出来事の兆候や経験に基づく直接情報を判断根拠としていることから,direct evidence的な表現でエビデンシャリティを有すると考えられる。
一方,〈将然〉用法における過去形の「シヨッタ」は,発生しかけたが実際には起こらなかった反事実的な出来事に対する話し手の評価が含まれる。よって,過去形の「シヨッタ」は〈将然〉というアスペクト的な意味に加え,エビデンシャリティだけでなくムード的な性質も併せ持つと考えられる。
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