サラバの“別れの挨拶語”化の過程を把握するには,その前段階である接続詞化の過程を精緻化する必要がある。接続詞化は,サラバが順接仮定条件の用法を失い,「状況を区切り,場を展開する機能(場面展開機能)」を獲得する変化である。その過程を辿るため,サラバの後続表現と先行事態に着目し,順接確定条件を表すサレバ,順接仮定条件を表す未然形バと比較した。サラバはサレバ・未然形バと異なり,①意志・命令表現との共起が多く,鎌倉期以降共起率が7~9割に達すること,②先行する外部事態を受ける例が多く,室町期に8割以上に達することを確認した。①②や先行論の指摘より,サラバは室町期に場面展開機能を獲得し,接続詞化したと考える。サレバや未然形バと比較することで,従来指摘されてきたサラバの特徴が,順接仮定条件のサ系接続表現としての,サラバ独自のものであることを示した。
倭玉篇の研究に於いて、従来は部の排列等の構成的側面が重視され、実質内容である和訓は等閑視されてきた。しかし、個々の和訓がどのような先行資料に淵源するかを調査することによってこそ、倭玉篇の諸本の系統的理解、また成立の過程をうかがうことができる。本稿はこのような視点から、代表的な倭玉篇5本(弘治二年本、玉篇要略集、玉篇略、拾篇目集、米沢文庫本)の和訓を調査し、その上で、弘治二年本の和訓が、他の諸本と異なり、文選の古訓と色葉字類抄から、多大な影響を受けたことを明らかにした。特に文選の古訓の影響については、個々の事例を精査して、それが確実に文選の古訓に拠るものであり、他に由来する可能性が無いことを証明した。
「好きだ」を述語とする「好きだ」構文の対象の格標示にはガとヲが用いられるが,このうちヲは特殊な環境下で容認される。「好きだ」構文のヲの容認性については,同一格助詞の重複の回避,他動性の程度,節タイプ,モダリティなどの要因が指摘されてきた。しかし,実例を見てみると同じ条件下であってもガが使用されることもあればヲが使用されることもある。そこで本稿では,別の選択要因として,願望構文におけるガ-ヲ交替の一要因とされる情報構造に着目する。『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を用い,用例の情報構造をRD(Referential Distance)の計測によって分析した。結果,ヲは対象の旧情報性が高い文で使用されやすいことが分かった。また,先行研究で指摘されていたモダリティの要因は,実際には情報構造が直接的な要因であると主張する。
本稿では,無助詞とノ,ガが主語を表す例を対象にし,平安時代から現代までの構造面の変化に注目しながら,三形態の歴史的展開と,変化を促した原動力について考察した。論じた点は次の通りである。①無助詞は文中の主述関係の区切りが不明瞭な「終止形述語」の大きい構造を成し,ノとガは主述関係の区切りが明瞭な「連体形述語」の小さい構造を成している。②中世末頃までは構造の大きさにより,無助詞が従属節と主節,ノが連体節と準体節に偏って用いられている。③ガが無助詞を超え,勢力拡大出来たのは,連体形述語の小さい構造により,文中に主述関係のまとまりを示す区切りが出来たことが主な要因と見られる。④ヒト・モノ準体の衰退が,ノが連体節においてなお,主語表示の役割を維持している要因の一つと見られる。
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