2009 年 5 巻 4 号 p. 16-30
中世後期から近世前期の複合名詞(和語{2+3構造})アクセントを、『平家正節』と「近松世話物浄瑠璃譜本」をもとに調査し、その結果を分析してみたところ、古代からの伝統をひくHHHHL(H4)型とHHLLL(H2)型とを基本とする体系から、近世前期にはH2型に統合しつつあったことがわかった。この段階では、複合名詞と前部成素との間の「式一致」はほとんどあらわれておらず、後部成素による複合名詞アクセントへの関与も認められない。このような同時代的要素が複合名詞アクセントに明確になるのは、史的変遷の過程としてみれば、「近松」の段階よりも後のことである。それ以後については、近畿中央式諸方言とも関連づけて、中世後期以降現代京都にいたる複合名詞アクセントの史的変遷を追ってみた。