フランスの歴史家、観光史家であるマルク・ボワイエは一連の著作の中で「観光の発明」と「社会的毛管現象による観光の普及」という概念を敷衍している。「観光の発明」とは伝統的な社会の頂点に位置する階層(ランティエ)が、下位の階層との社会的区別を図るために、観光の諸形態を顕示的消費の一つの形として創り出すことであり、「社会的毛管現象による観光の普及」とは、下位の階層が社会的上昇を目指して上位の階層の観光形態を模倣し、その結果として下位の階層に観光形態が普及していくことである。つまり観光では発明と普及が不可避的に連続している。 従ってある観光形態は社会的区別の指標として役立つが、やがて模倣されることによってそうした意味を失うと、新たな観光形態が発明されるという不変のプロセスを繰り返すことになる。こうしたプロセスによって観光は上位階層から一般大衆のレヴェルにまで拡大されてきたが、形態だけ模倣したマス・ツーリズムの弊害も甚だしくなった。現代にふさわしい観光形態の発明が今日われわれに共通する課題である。