日本近代文学
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論文
言葉をなくした男
──森鷗外『舞姫』──
多田 蔵人
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2021 年 105 巻 p. 1-15

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抄録

本稿は森鷗外『舞姫』(明治二三年)の分析を通じて、本作を明治二〇年代の文体史に位置づけるものである。一章では「雅文体」と定義される本作に複数の修辞が用いられ、修辞の変動に託されたメッセージがあることを示した。二章では主人公・太田豊太郎の都市描写を同時代の表現と比較し、太田が複数の言語を往還する名文家であることを指摘し、エリスとの関係もまた言葉をめぐる物語であることを示した。三章ではエリスの手紙を同時代書簡文と比較し、手紙が太田に教えられた言葉づかいであることによって太田の言葉を覆い隠す装置になっていることを示した。四章では太田がエリスと育んだ愛の言葉にとらわれながら別れの物語を綴る膠着状態にあることを指摘し、同時代小説論と比較しつつ、文章啓蒙の不可能性を示した作品として『舞姫』を評価している。

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