日本近代文学
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「うたかたの記」とドイツ美術界の動向について : ミュンヘン画壇の消息より
美留町 義雄
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2014 年 90 巻 p. 17-31

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抄録

「うたかたの記」は、画家を主人公とした芸術家小説である。ゆえに従来の研究では、西洋絵画史に関わる分析が積極的に為されてきた。だがその多くは、主人公のモデルである原田直次郎と森鴎外との交流をめぐって考察が進められており、鴎外自身が直面したドイツ美術界の動向と「うたかたの記」の関係については、依然として論究の余地が残されている。本論では、鴎外が滞在していた時期、ミュンヘンではまさにモダニズム芸術の勃興期にあたっていた点に着目し、官学派(アカデミー)が支配していた美術界の構造が大きく揺らぎ始めていた事実を論究する。若き鴎外を取り巻くこうした状況を明らかにしたうえで、あらためて「うたかたの記」を捉え直すと、アカデミーから離れようとする登場人物の動きが視界に入ってくる。その行先は「スタルンベルヒ」湖畔である。当時、実際にこの地では若き画家たちが結集し、新たな絵画表現を模索していた。本論は、こうした美術・文化史的な動性の中において、この小説を再検証する試みである。

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