日本近代文学
Online ISSN : 2424-1482
Print ISSN : 0549-3749
ISSN-L : 0549-3749
新派劇<婦系図>と原作テクスト : 泉鏡花「湯島の境内」を視座として
鈴木 彩
著者情報
ジャーナル フリー

2014 年 90 巻 p. 32-47

詳細
抄録

「婦系図」が新派劇に脚色された際に加えられた「湯島天神境内」の場面を、後に泉鏡花が書き改めたことは、お蔦と主税の物語に焦点を当てた劇化への追従と見做されてきた。だが初期の上演には原作を意識した部分も多く、鏡花の「湯島の境内」はそこに原作に関わる要素を加え、他の場面との接続を円滑にしている。原作とは異なるようにみえる主税像も、河野家との対立関係においては原作の主税の立場に通じる。また鏡花の「湯島の境内」を加えた新派劇と、後の「婦系図」の改訂も相似形を成し、原作を志向した「湯島の境内」の書き改めが、「婦系図」の新たな形態を提起した可能性も考えられる。「婦系図」の劇化は原作から断絶したものではなく、原作テクストとの関係の中から捉え直される必要がある。

著者関連情報
© 2014 日本近代文学会
前の記事 次の記事
feedback
Top