日本近代文学
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消費社会と人間 : 大江健三郎『万延元年のフットボール』論
團野 光晴
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2014 年 90 巻 p. 109-124

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抄録

消費社会論的アプローチから、『万延元年のフットボール』の理解と時代への位置づけを試みた。スーパーの出現によって伝統を破壊され衰退する村で、村の旧家の息子・根所鷹四は、消費社会の価値創出手段たる差異化の操作を応用して村の伝説である万延元年一揆を現代に再現し、スーパーと対決する。この暴動は敗北して鷹四は自殺するが、後に万延元年一揆の首魁が民衆救済の信念を持ち続けたことが証明され、鷹四は彼に連なって村の伝統を継承する者と村で見なされるようになる。一方鷹四の兄・根所蜜三郎は、鷹四の目指した人間解放の理想を胸に、その普遍的な形での実現を追求せんと村を出る。この意味で本作品は、高度成長期の急激な消費社会化に抗した「知識人」の文学であると言える。

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