2015 年 92 巻 p. 1-16
郡虎彦は、一九一一年に「鉄輪」を『スバル』に発表した後、一九一三年に改作して『白樺』に掲載し、さらに一九一七年のロンドン上演のために自己翻訳した。本稿は、郡が「鉄輪」をどのように改作・自己翻訳したのかという問題を、ロンドンにおける「鉄輪」上演に関わる資料を用いて考察することを目的としている。「鉄輪」を上演したパイオニア・プレイアーズと演出家イーディス・クレイグは女性参政権運動と関わっており、同作は「精神的な柔術」として評価された。「鉄輪」上演と評価の背景には、英国における日本へのイメージと女性参政権運動と柔術の結びつきがあったことを指摘し、郡が「鉄輪」を改作・自己翻訳していく過程が、当時のイギリスの社会運動や思潮と響きあっていたことを明らかにしたい。