日本考古学
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乾燥堅果類備蓄の歴史的展開
名久井 文明
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2004 年 11 巻 17 号 p. 1-24

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抄録

全国の縄紋時代以降の諸遺跡から果皮が除かれたクリ,「どんぐり」類が発掘されることがある。それら堅果類の表面に残された特徴から,果皮は人為的に除かれたことが判る。クリの場合には果皮が除かれた子葉の表面に深い皺が認められる。これはクリが果皮を除かれる前に十分に乾燥され収縮した痕跡である。果皮の内部で子葉が収縮したために果皮との間に隙間ができた。その後どのようにして中の実を取りだしたか,参考になるのは乾燥させてから備蓄したクリを食べる民俗例である。それによると杵で搗いて果皮を破り,取りだした実を搗栗と呼んで煮て食べた。
同様のことは「どんぐり」についても言うことができる。「どんぐり」をよく乾燥させて備蓄し,食べる時に杵で搗いて果皮を除く民俗例がある。遺跡から果皮が除かれた状態で発見される「どんぐり」も,そのようにして果皮が除かれたものであろう。
縄紋時代の人々が「搗く」という行為を行っていた証拠の一つは,「どんぐり」の「へそ」である。「へそ」は「どんぐり」が殻斗とつながっていた部分だが,十分に乾燥された「どんぐり」を搗いた時に果皮から分離する性質がある「へそ」が,草創期から晩期までの各時期の遺跡から発見されるのである。そして少数だが,縄紋時代の竪杵も発見されている。
出土遺物だけを見るとクリや「どんぐり」を乾燥させて備蓄し利用する文化は縄紋時代の初期から平安時代まで継続したように見える。しかし民俗例を併せて考えると,この文化は現代まで途切れることなく受け継がれているのである。民俗例では乾燥堅果類を備蓄する場所は炉上空間だが,そのことも縄紋時代以来受け継がれてきたことが考えられる。炉上空間は乾燥食料を備蓄するための重要な空間として草創期以降途切れることなく確保され続けてきたものと思われる。

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