日本考古学
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階層化社会と亀ヶ岡文化の墓
東北地方北部における縄文時代晩期の墓
金子 昭彦
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2005 年 12 巻 19 号 p. 1-28

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抄録

縄文時代の発展のピークと考えられる亀ヶ岡文化の墓制を検討し,近年言われるように階層化社会へ至っているか確認する。現在この分野で活躍している中村大氏の研究を批判的に継承し(第2~3節),別の角度から亀ヶ岡文化の墓制を記述し(第4~5節(1)),そのような墓制を生み出した背景について考察し(第5節(2)),階層化社会の墓と言えるかを示す(第6節)。
中村氏への批判は,墓の認定,土坑墓群の認定,階層化社会の読みとりの3点に分けられる。墓の認定は,確からしさの異なる幾つもの認定基準を同等に扱っていることで,筆者は,格差を設けて認定基準のそれぞれに点数を与え,その総合点で,その遺構が墓かどうか判断するという方式を考えた。土坑墓群の認定とは,「近接する時期に形成された一群の土坑に,上記認定基準のいずれかに該当する土坑が含まれる場合には,その土坑群全体を土壙墓群と認定する」というもので,あまりに大雑把な"見なし"ではないか。確実な資料のみに頼っていたら,いつまで経っても解釈に踏み出せないという中村氏の気持ちはわかるが,氏のように確からしさの異なる様々な資料を一括して扱えば,どの程度正しいのか測りかねるし,信じる,信じないの問題になってしまう。解釈の根拠,蓋然性の差を何とか表に出せないか,きめ細かく評価できないかと試みたのが,本稿の"蓋然性"である(第3節)。先ほどの墓の認定方式で,一応5点以上のものを墓とするのに無理はないと考え,墓と見なしたい数×5点を母数とし,実際の点数を合計したものの割合を出し,これを"蓋然性"として示したい。
拠点集落の墓地の形状を"共同墓地"と"個家別墓地",土坑墓の種類をΑ(楕円形墓),Β(円形墓),Γ(墓に転用された貯蔵穴)類に分け,拠点集落―拠点集落外の土坑墓の種類の分布を見ると,"共同墓地"―Β,Α類,"個家別墓地"―Γ,Β類の結びつきが見られ,それぞれ分布を異にすることがわかった。この違いは立地(地形)の違いに基づく二つの居住様式に根ざしているようだ。土坑墓の種類は,Α類が理想で,Γ→Β→Αという序列は想定できそうなのだが,それを階層差として捉えようとすると不都合な例外が次々に現れてくる。副葬品についても一元的に解釈できず,亀ヶ岡文化の墓に階層社会の証拠を求めるのが無理なのではないかと判断された。

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