日本民俗学
Online ISSN : 2435-8827
Print ISSN : 0428-8653
論文
離島における女性の労働と観光
―愛知県日間賀島を事例に―
林 春伽
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2020 年 304 巻 p. 1-34

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抄録

 本稿では、愛知県三河湾にある日間賀島を調査地として、離島観光地における女性の労働について考察を試みる。日間賀島は現在、愛知県や周囲の東海圏の人々から観光地として認知され、島内では宿泊業や飲食業等の観光業・観光関連産業が盛んである。当地のフィールドワークと聞き取り調査により、日間賀島における女性の労働を時系列的に整理した。具体的には、明治時代以降を第一期から第五期にわけ、各時期に女性が携わった労働を整理した。

 その結果、観光業が島内で盛んとなる以前より、女性たちは男性の漁業の手伝いや農業、絞り業、のり加工業といった多数の労働に従事し、現金収入を得て、家計を支えていたことがわかった。また、観光業は、各世帯の家庭の事情を背景に、島民が生きるために選択した生業であることも明らかとなった。これは、島内の世帯維持に関する民俗的方法として、複合生業の考え方が背景にあると思われる。現在でも、複数の生業を組み合わせ、自身の生活環境や家庭事情に合った働き方を行っている。

 そして、観光業や漁業など複数の生業を組み合わせながら生きている島民同士が断絶することなく、島の中で生活できる理由として「自分たちで自分たちの島をよくしたい」という、生業を超えた行動理念があることが明らかとなった。また現在の日間賀島では、観光業が成立したことで、島内の様々な生業がいわば観光関連産業化していると言える。観光業が島の主要産業になりながら、観光業/他の生業という対立、断絶にならないのは、観光が軸となり島内の様々な生業が観光関連産業化し全体として機能していることが要因と考えられる。今後は、女性だけではなく観光業に携わる男性の姿も視野に入れた調査を継続し、総合的な離島観光研究に繋げていきたい。

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© 2020 一般社団法人 日本民俗学会
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