日本民俗学
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論文
神輿荒れはどのように、そしてなぜ起こったのか
―明治・大正期京都祇園祭に注目して―
中西 仁
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2021 年 306 巻 p. 1-34

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抄録

 本研究では、近代、明治・大正期の京都祇園祭の神輿場での揉め事、喧嘩、暴力沙汰などの「神輿荒れ」を対象に、神輿舁きたちが神輿荒れの場をどう捉えていたかという「場の意味」、神輿舁きたちがどのような意図をもって神輿荒れをおこしたか、神輿荒れが結果としてどのようなことにつながったかという「荒れの目的または意味」、神輿荒れを起こした現場での神輿舁きたちの「集団意識」、という3つの点に着目し、個々の事例から神輿荒れの分析を試みた。

 その結果、平等や自由、生存などに関わる公的怨みである「公怨」をはらすことが目的の「公怨型」、目立ったり売名を目的とする「劇場型」、他の集団との喧嘩、揉め事を繰り返すことによって、それぞれの集団や地域のローカルアイデンティティを強化する「抗争型」の3つの類型に分類することができた。類型化という方法及び本研究が提示した三類型は、祭礼やイベントでの揉め事、喧嘩、暴力沙汰の原因、背景、構造を理解するための補助線となろう。

 類型化しただけでは、神輿荒れがなぜ起こるかを解明したことにならない。神輿荒れとは、当事者たちの一時的な感情による突発的な現象ではないからである。本研究では神輿舁きたちの日常的な願望、生活態度、社会との関係を、神輿荒れの根底にある「論理」として注目した。本研究が対象とした明治・大正期の京都祇園祭の神輿舁きたちは、都市下層の労働者、雑業者が中心である。彼らには「強烈な承認願望」があり、彼らの生活態度として「自由奔放な生活感覚」があげられる。そして彼らの社会での立ち位置には「周縁性」が認められる。祭りがハレの場であるからこそ、これらの特徴が何かのきっかけで刺激され集団意識として凝集し、行動につながったのである。

 神輿荒れの頻発から終息の過程を検討する中で、神輿荒れとは新たな神輿舁き集団の祭礼への定着の過程であることが判明した。定着後は神輿舁きたちの神輿荒れへの情熱は神輿舁きの技術を他の神輿舁き集団と競う「スポーツ化」「競技化」に移行した。

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© 2021 一般社団法人 日本民俗学会
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