新潟医療福祉学会誌
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症例・事例・調査報告
新潟県中学野球試合における投手の登板人数および球数調査
鵜瀬 亮一中村 絵美佐藤 勉石川 智雄佐藤 和也
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2021 年 21 巻 2 号 p. 57-60

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Abstract

現在野球界では、年代を問わず球数制限やイニング制限による投球障害防止の議論が盛んになされている。中学生は発育スパート期にあり、特に身体のバランスが大きく変化しやすい。本調査は、中学野球選手の公式戦と練習試合における登板人数と球数の実態把握を行なうことを目的に、新潟県中学校体育連盟に所属する軟式野球部(前期147校、後期151校)を対象に調査を行なった。調査期間は前期と後期の2期に分け、それぞれ前期2019年3月から7月、後期2019年7月から11月であった。その結果、1試合平均登板人数は公式戦の前期が1.68±0.73人、後期が1.89±0.77人、練習試合の前期が2.16人±0.97、後期が2.23±0.94人で前期・後期ともに公式戦が有意に少なかった。1試合を完投する投手の割合も前期が公式戦46.6%、練習試合が25.7%、後期が公式戦32.9%、練習試合が19.7%と前期・後期ともに練習試合の方が有意に低かった。また、公式戦で完投した投手の平均球数は前期92.1±24.3球、後期89.9±20.6球であった。今後はチームの所属人数や強さなども考慮に入れながら、平均登板人数が少なくなる要因を検討していきたい。さらに、中学軟式野球において定められた投手の球数制限(1日100球)については、その医学的な根拠を示すことも求められるだろう。

Translated Abstract

In the baseball world, there is currently considerable discussion about the prevention of pitching obstacles by limiting the number of balls and innings regardless of age. Junior high school students are in a development stage, and their physical balance is likely to change substantially. This study investigated number of pitchers and pitches in official and practice baseball games of junior high schools. We surveyed 298 teams belonging to the Niigata Junior High School Physical Culture Association. The survey period was divided into two periods (the first half and the second half). The first half was from March to July 2019 and the second half was from July to November 2019. As a result, the average num- ber of pitches per game was 1.68±0.73 in the first half of the official game, 1.89±0.77 in the second half, 2.16±0.97 in the first half of the practice game, and 2.23±0.94 in the second half. Official games had significantly fewer pitchers per match than practice games in both terms. The percentage of pitchers who completed games was 46.6% in the official game in the first half, 25.7% in the practice game, 32.9% in the official game in the second half, and 19.7% in the practice game. Compared with official games, practice games also had a sig- nificantly lower percentage of pitchers who completed games. Official games had an aver- age of 92.1±24.3 pitches in the first term and 89.9±20.6 pitches in the second. Further research is needed to identify factors that can reduce average participating-pitcher num- bers per game, considering the number of team members and their skills. In addition, the medical basis of guidelines for optimal pitch counts should be clarified.

Ⅰ はじめに

2018年12月に新潟県高等学校野球連盟が、2019年4月開幕予定の春季新潟県大会から、投手の1試合あたりの投球数を100球までとする球数制限の導入を発表した。結果的にその実施は見送られたが、この発表を機に野球投手の球数が全国的な議論となり、日本高等学校野球連盟が「投手の障害予防に関する有識者会議(以後、有識者会議)」を設置するに至った1)。2019年11月、日本高等学校野球連盟は有識者会議の答申を受けて、1人のピッチャーが公式戦で投げられる球数の上限を1週間で500球までと決めた2)。この球数制限は、2020年3月11日開幕予定であった第92回選抜高等学校野球大会以降、全国大会だけでなく地方大会を含めて適用されることになった。さらに、有識者会議の答申は、高校生年代での球数制限だけではなく、小学生、中学生年代においてもその必要性に言及している。

中学生投手の球数制限について全日本軟式野球連盟は、「肘・肩の障害防止を考慮し、1日7イニングまで」としていた規定を「1日の投球数100球、1週間の投球数350球」へと変更し、2020年3月から開幕する大会での実施を発表した3)。また、小学生投手の球数制限については、肘・肩の障害防止を考慮し、2020年度からすべての公式戦において「1日70球以内」というルールが適用されることになった4)。こうした投手の球数に関する各年代での規定は、日本臨床スポーツ医学会学術委員会の大国らによる「全力投球数は、小学生では1日50球以内、試合を含めて週200球をこえないこと。中学生では1日70球以内、週350球をこえないこと。高校生では1日100球以内、週500球をこえないこと。なお、1日2試合の登板は禁止すべきである。」という提言がその背景にある5)。また、日本整形外科学会および運動器の健康・日本協会が、全日本野球協会の協力を得て行なった小中学生野球選手の全国アンケートでは、少年野球選手がオーバーユースである実態が明らかになっている6)。その中で肩、肘障害については、野手よりも投手および捕手に起こりやすいことや1か月の平均試合数が10試合以上の選手に起こりやすいことが報告されている。未来の野球界を支える人材が、障害を抱えることなく、長く野球を続けられる環境を整備することが大切だろう。

少年野球選手を対象にした先行研究では、肘関節痛の発症に、年間試合数や1日および週間の全力投球数がどの程度関与しているのかを明らかにするために、球数についてのアンケート調査を行なっている7)。また、高校野球投手を対象にした先行研究では、その年のシーズン終了時にアンケート調査によって試合時の球数とイニング数を集計した報告がみられる8)。いずれの報告も中学生を対象にしたものではなく、年に一度、選手の自己申告によって調査されているが、選手の記憶を頼りに球数調査を行なう方法では、1試合の正確な球数を把握することは困難だと言える。さらに、投球制限を設ける際には、公式戦の記録だけではその実態を把握することは難しく、練習試合も含めた調査を行なわなければ、現実的に問題が起きていることを指摘できないだろう。中学生の球数については、日本臨床スポーツ医学会学術委員会が「1日70球以内」と医学的な観点から提言を行なっている。一方、全日本軟式野球連盟が導入した規定は「1日100球以内」である。その規定が導入された経緯は明らかではないが、2020年3月以降に実施される中学野球の試合には、「1日100球以内」規定が適用されている。したがって、本調査では「1日100球以内」規定に沿って、現状の中学野球現場の実態を把握し、考察を行なう。そこで我々は、新潟県中学校体育連盟の軟式野球専門部の協力の下、中学野球投手の練習試合および公式戦における登板人数と球数について調査を行なった。

Ⅱ 方法

1 対象および調査期間

対象校は新潟県中学校体育連盟に所属している軟式野球部であった。調査実施期間は前期と後期の2期に分け、それぞれ前期2019年3月から7月、後期2019年7月から11月とした。中学野球では、7月の大会を最後に3年生が部活動から引退する。それ以降は2年生と1年生を主体としたチーム編成になり、それまでのポジションも再配置がなされるため、前期と後期に分けた。また、調査期間の対象となっていない12月から2月に試合は行なわれていない。新潟県中学校体育連盟より県下の軟式野球部216校に調査協力を依頼し、前期147校、後期151校から回答を得た。回答率は前期68.0%、後期69.9%であった。そのうち、前期12校、後期23校については部員不足によりスコアブックをつけられず、球数が把握できなかったため分析対象とはしなかった。また、前期2校が合同チームのため自チームに投手がおらず登板の機会がなかった。さらに、後期4校は部員不足のため活動停止で試合を行なっていなかった。これらのチームを除いた前期133校、後期124校を分析対象とした。

なお、調査に先立ち本調査が中学野球選手の障害予防につながることを目的としている点、研究結果の公表は個人を特定できないように配慮する点を保護者と各校顧問に確認し、同意を得た上で行なった。また、調査への協力は任意であり、自らの意思で中断することも可能な状態であった。

2 調査項目と方法

調査項目は中学校名、試合実施日、試合数、試合の種別(練習試合・公式戦)、登板した各投手の投球数であった。調査項目については、各校の顧問が調査項目をスコアブックから1試合ごとに集計し、前期終了後と後期終了後に著者へメールで報告を行なった。その後、著者が各校から届いたデータを集計した。なお、スコアブックから集計を行なう顧問は、各学校から軟式野球部顧問に正式に任命された立場の者であり、新潟県中学校体育連盟軟式野球専門部の会議において受けた、本調査の目的と意義の説明を充分に理解し、協力を得た学校である。

3 統計処理

有意差検定には、エクセル統計for Windowsを用いた。練習試合と公式戦の1試合平均登板人数の比較には対応のないt検定を、公式戦と練習試合の完投割合の比較にはフィッシャーの直接確率検定を用いた。また、統計的有意水準は5%とした。

4 倫理

本研究は新潟医療福祉大学の倫理委員会の承認(承認番号:18515-201124)を得て行なった。

Ⅲ 結果

1試合平均登板人数は公式戦の前期が1.68±0.73人、後期1.89±0.77人、練習試合の前期が2.16人±0.97、後期が2.23±0.94人となり、前期、後期ともに公式戦での平均登板人数が有意に少なかった(表1)。また、1試合平均球数は公式戦の前期が101.2±29.7球、後期105.2±35.4球、練習試合の前期が110.7±41.8球、後期が105.4±39.0球であり、前期の平均球数は公式戦が有意に少なかった。

完投割合は前期、後期ともに公式戦が有意に高かった(表2)。また、完投した投手の平均球数は公式戦前期92.1±24.3球、後期89.9±20.6球、練習試合前期86.3±22.0球、後期83.4±22.6球で100球を下回っていた。

Ⅳ 考察

1 公式戦と練習試合の1試合平均登板人数と球数について

本調査における1試合平均球数は、公式戦と練習試合において100球を超えている。これは全日本軟式野球連盟が定めた「1日100球以内」という規定下では、多くの試合が複数投手を起用しなければならないことを示している。一方、完投した試合では平均球数は公式戦も練習試合も100球を超えていない。本調査は全日本軟式野球連盟が「1日100球以内」の規定を定める前のデータである。規定が球数に影響を及ぼす2020年以降のデータを収集し、平均球数がどのように影響を受けるかを引き続き検証していきたい。

また、本調査では前期、後期ともに練習試合に比て、公式戦での1試合平均登板人数が有意に少なかった。一般的に、練習試合は多くの選手に出場機会を与え、その成長の度合いを確かめたり、課題を見つけてもらうことを目的に行なうことが多い。本調査においても、練習試合の平均登板人数が多かったことは、各顧問が複数投手の育成を試みているからであろう。しかし、公式戦でそれが実現できていないことは、投手育成指導に課題があることを示唆している。一方で、野球競技では勝利をめざし過ぎるあまり、1人の投手に負担がかかる傾向があるとの指摘もある9)。本調査において練習試合よりも公式戦における平均登板人数の方が前期、後期ともに少なかったことは、投手育成指導だけの問題ではなく、そうした可能性を示唆している。

今後、継続的に球数の調査を行なうにあたり重要な視点は、公式戦と練習試合の平均登板人数が増加するかである。日本高等学校野球連盟が設置した有識者会議の答申でも、加盟校はより積極的に複数投手の育成に留意することが記されている。また、全日本軟式野球連盟が示している「学童野球における投球数制限のガイドライン」においても、選手の障害予防のために複数の投手と捕手を育成することが明記されている4)。そうした中、本調査では中学野球の公式戦における平均登板人数は前期、後期ともに1人台になっており、その提言やガイドラインの実現にはまだ至っていないように感じる。現状のままだとオーバーユースになってしまう可能性があり、投手指導に定評がある指導者による研修会を実施するなど、積極的に複数投手が試合で投げられるような環境整備をさらに進めていかなければならないといえる。

2 中学野球における完投について

中学野球における完投割合も前期、後期ともに練習試合に比して、公式戦の方が有意に高かった。公式戦の完投割合は前期で46.6%、後期で32.9%であり、複数投手育成に向けた課題が伺える。また、完投した投手の平均球数は前期92.1±24.3球、後期89.9±20.6球と100球を超えていないが、そこで投球障害が発生しているか否かについては分からない。日本臨床スポーツ医学会学術委員会は「1日70球以内」を提言しており、その障害発生状況によっては、今後「1日100球以内」という全日本軟式野球連盟が定めた規定を再考する必要もあるだろう。

Ⅴ 結論

本研究では新潟県における中学生軟式野球投手の練習試合と公式戦における球数と登板人数の調査を行なった。その結果、1試合平均登板人数は公式戦の方が少なく、1試合を完投する投手の割合も公式戦が高かった。公式戦で完投した投手の平均球数は前期、後期ともに、全日本軟式野球連盟が導入した中学生投手の球数制限1日100球)以内であった。

利益相反

本研究における利益相反に該当する事項はない。

References
 
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