2021 Volume 21 Issue 2 Pages 78-84
近年、DVは社会的問題としての認識が広がり、DV再発防止の観点からは被害者と加害者のどちらにもかかわりが必要であることが指摘されている。しかしながら日本のDV対策においては、加害者への主な対応は一部の民間機関からの支援提供に留まっているのが現状である。そこでDV加害者更生の現状と課題を明らかにした上で、既存のプログラムにおける課題の克服を目指して、新たな支援モデルの検討をする目的として本研究を行った。
インタビュー調査を用いて調査した結果、特にDV加害者更生に関する専門性を有する人材の不足が深刻な問題であることが明らかとなった。そのため、加害者更生の実施機関だけでなく被害者支援機関や行政の相談窓口などとより一層の連携を強化し、課題の解決を目指す必要があると考える。また本研究の調査結果から、被害者からの説得や勧めで加害者が加害者更生に参加するケースが多いことも把握できた。そのため、被害者と加害者が希望する場合には、双方の関係修復や再構築という選択肢を選ぶことを可能とする新たな支援方法のモデルとして、「関係構築モデル」を構築した。
In recent years, domestic violence (DV) has become more widely recognized as a social problem. It has been pointed out that it is necessary for both victims and perpetrators to be involved to prevent the recurrence of DV. However, in the current situation, only some private organizations provide support to the perpetrators. Therefore, we aim to overcome the current issues relating to the DV perpetrator program in Japan. This study was conducted to examine a new support model.
Through an interview survey, we found that the shortage of human resources with expertise in the DV perpetrator program was a serious problem. Therefore, not only the executive agency of the perpetrator program but also the damage required improvements. We think that it is necessary to strengthen the cooperation between in-person support organizations and administrative consultation staff to solve the current problems. In addition, from the survey results of this study, it was found that there are many cases in which the perpetrator participates in the perpetrator program by persuading or recommending the victim.We also learned that there are many cases of participation in the program. The new support model, that is, “the relationship-building model,” could allow the victim and the perpetrator, if they wish to do so, to choose the option of repairing or rebuilding their relationship.
近年、配偶者間暴力(Domestic Violence:以下DV)は社会的問題として位置づけられており、配偶者暴力相談支援センターや婦人相談所などにおいて安全な生活の確保や、法的手続きの促進、自立生活の促進などの被害者支援が行われている1)。一方で、加害者への対応は裁判所命令による接近禁止命令や保護命令発令が主な対応となっており、民間による加害者更生も実施されているものの、その参加は任意である。被害者支援の法整備化が進む一方で、加害者への対応については触れられてはおらず、実際は民間団体によるプログラム活動が主であり、被害者支援と同様に充実しているとは言い難い。今後のDV対策においては、加害者と被害者の双方への支援や働きかけが必要であり、特に加害者に対しては早期発見によって加害行為の深刻化を防ぎ、また再発を防止するためのプログラム実施が求められている。
そこで日本におけるDV加害者更生の現状と課題を明らかにした上で、既存のプログラムにおける課題の解決や改善を目指し、加害行為の深刻化や再発防止につなげる新たな支援モデルを検討することを目的として本研究を行った。先行研究において明らかにされている加害者更生の現状と課題について把握した。CiNiiの文献検索サービスを用いて「DV加害者」と「加害者更生」を検索キーワードとして先行研究の検索を行った。そして「DV加害者」でヒットした76件と、「加害者更生」でヒットした17件の内、実際にプログラム実施団体を対象に調査を行った先行研究10件と数少なく、特に加害者更生実施団体の現状やプログラム終了後の加害者とのかかわり1)、加害者更生の課題などについては明らかにされているとは言い難いことがわかった。また日本では、カウンセリングや心理療法を中心とする心理療法アプローチと2)、NPO法人で実施されているアメリカの加害者更生をモデルとした日本式の加害者更生の2通りが行われていることも明らかとなった。ただし、前者は実施団体が極めて限られる上、DV加害者への心理療法とその効果の証明ではなく加害行為の深刻化や再発防止につなげる支援プログラムの検討を本研究の目的としているためNPO法人で行われている加害者更生に的を絞ることにした。
1 調査対象
DV加害者更生のファシリテーター講習を行っているNPO法人「アウェア」において同講座を受講したファシリテーターが在籍している3団体に調査協力を依頼し、同意を得ることができた団体A、B、Cの代表者各1名、計3名を対象にインタビュー調査を実施した。各団体の概要は 表1に示すとおりであり、データ収集期間は2020年3月9日から4月13日の35日間であった。
2 データ収集
面接方法は半構造化面接で、時間は1時間とした。場所は対象者と相談して場所を設定して行った。インタビューは録音し、その後逐語録に起こした。質問項目としては、まず調査対象者の基本情報として年齢と職業、勤務年数、現職に就いた経緯の3項目を尋ねた。
その上で、①実施しているDV加害者更生の現状(参加人数や活動の状況)、②DV加害者がプログラムを受けるようになったきっかけ、③加害者更生終了後の対象者への関わりの有無、④DV加害者更生における他団体のかかわりや連携の有無、⑤DV加害者更生の今後の課題、⑥加害者更生の実施主体の6項目を尋ねた。
3 データ分析
分析方法としては、まず各調査対象者から個別に聞き取った内容を逐語録に起こし、内容を質問項目ごとに整理した。逐語録は、次に、KJ法を用いて内容を整理し、先行研究で記されていないワードを中心にピックアップして項目として整理し、具体的な例も書き出して検討した。
なお、本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号18368-200210)。
1 調査対象者の基本情報
インタビュー調査の調査対象者は3名であり、いずれも各団体の代表者である。平均年齢は71歳で全員女性であり、また勤続年数は平均10年であった。さらに、現職についた経緯はさまざまであり、「DVシェルター運営時に行っていた電話相談で、被害者を守っても加害者が変わらなければDV問題は解決しないことに気づき、プログラムを始めた」というケースや、「虐待や性暴力などの被害から子どもを守るための予防教育プログラムでDVプログラムについて勉強したことが契機となった」というケース、「友人がDVで刺殺されたことがきっかけとなった」というケースがあった。表2は調査対象者の基本情報の概要であり、また表3は各団体における加害者更生の現状をまとめたものである。表3は各調査対象者からの聞き取り内容を質問項目ごとに整理し、キーワードを項目としてまとめ、具体例を書き出している。なお、()内のアルファベットは該当する調査対象者を意味している。
2 DV加害者更生の実施状況
今回調査した3団体のうち、2団体は同じプログラムを行っており、全52回を1つのプログラムとして行っている。内容としては、専門の研修を受けたファシリテーターが中心となってグループワークを行い自身の加害経験について話したり、メンバーの話を聞くことで、同じ状況になった時どうすればよいかを一緒に考え、今後どのようにすれば加害行為を行わないかを学ぶことも目的としている。ただ、団体Bでは、同じプログラムに加えて被害者にもアプローチを行う「関係修復プログラム」も行っている。
また、調査を行った3団体のうち団体Aの相談件数が最多であり、年間約100件の電話相談を行っている。ただし、来所して実際にプログラムへ参加する人は約70人であり、参加要件は設けていない。一方で、団体Bでは被害者と加害者との関係修復を目的として実施しているため、参加には一定の要件を満たす必要がある。このように、参加要件の有無は各団体ごとに異なることがわかった。
3 DV加害者がプログラムを受けるようになったきっかけ
DV加害者が加害者更生に参加したきっかけとしては、「夫婦の関係がよくないため子どもへの悪影響を感じている」「このままではいけないと考えた」など、子どもがいる妻からの連絡が多い。また、数は少ないものの加害者自身がパートナーとの離婚をしないことを条件にプログラムへの参加をする場合や、怒りの感情をコントロールしたいと考えて加害者がプログラム実施団体に相談に来る場合もあった。相談者の内訳としては約7~8割は妻であり、その他には妻から言われて相談したという夫や、弁護士、病院関係者、県や市から紹介された人などである。さらに、子どものいない夫婦がパートナーの訴えで参加するケースや、離婚を選択しないために加害者更生に参加するケース、夫自身は参加に意欲的ではないものの、妻が強引に連れてきて参加させているケースなどがあった。
4 加害者更生終了後の参加者へのかかわり
団体Aではプログラムの終了時に妻の前で夫が体験談を発表し、夫が変わったのか否かなどの意見を妻から聞き、双方による話し合いの機会を設けている。その後は1ヶ月に1、2回、団体への来所を勧めており、その際には夫婦同席による面談を推奨している。そして、本当に夫が変わり、かつその状態を維持しているのかどうかを確認するなど、加害者更生の終了後も団体Aは加害者や被害者とのつながりを保つようにしている。また、団体Bではプログラムに再度参加する人はいないとする一方で、関係修復プログラム終了後に被害者であるパートナーからの相談に応じるなど、プログラム終了後も関わりを保つようにしている。
5 他団体とのかかわりや連携
団体Aは、所在地である市から助成金を受けていることから、市の相談窓口の管理職が見学に来る上、県職員も年一回ほど見学に来ている。そのような見学者を通じて加害者更生への理解が広まり、市や県の相談窓口において加害者がプログラムを紹介されるケースがある一方で、「市役所の相談に行ったら離婚の方向性で行こうと言われ、自分はそんな思いはなくびっくりしてこちら(団体A)に来た」という被害者からの相談を受けたというケースもあった。そのため、団体Aの代表者は、「実際に窓口で被害者にかかわる担当者は(団体Aに)来ないため、加害者が変わることができるというのを見ていない。そのため、『加害者は変わらない』という認識を持っている相談員が離婚を促しているのではないか」と述べていた。
次に、団体Bでは他機関との連携については、団体の所在地である県にDV被害者連絡会議があり、DV被害者支援にかかわる民間団体と公的団体、裁判所、警察などの代表者が年に二回、情報交換を行っていることが明らかになった。しかし、団体Cは他機関とのかかわりはほとんどないと回答しており、他機関とのかかわりの有無は、団体ごとに大きな差異があることが明らかになった。
6 DV加害者更生の提供主体
調査対象とした全ての団体において、DV加害者更生を行うファシリテーターが1名と10名程度のボランティアで活動していた。この現状について、団体Bの代表者は「アメリカのカリフォルニア州に比べて日本では特に資格を持っているファシリテーターが少ない」という点を指摘し、解決策として「プログラム提供団体のメンバーの資格取得や、定期的に専門職との意見交換をする機会を設けることで知識を学ぶことができる。そうすることで質を維持でき、社会からの信用度も高まっていくのではないか」と述べ、加害者更生における提供者の資質向上の必要性を指摘していた。
7 DV加害者更生の今後の課題
調査対象者はいずれも、DV防止法において加害者に関する内容の改定が必要であると述べていた。また、その他の課題としては以下のような点を指摘していた。
まず、団体Aでは児童虐待の現場において児童相談所や警察に相談があった時点で加害者更生や裁判所へつなぐことができれば被害拡大の防止に結び付けられると考え、今後の課題としていた。また、加害者が加害行為を行った場合に早期にプログラムに参加させることができれば、さらなる加害行為を防止できるため、早期段階からの介入を課題としていた。
次に、団体Bでは加害者と被害者が離婚する選択肢だけでなく、関係を修復するなどDV対策の選択肢を増やすことで、支援を受ける側がどのような支援を受けるのかを選べるようにすることが重要だと述べていた。それにより、被害者を支援する際にどの支援方法が適切かを支援員が選ぶのではなく、被害者自身が選べるように支えることが今後の課題として挙げられていた。
本研究をとおして、先行研究では実際にプログラム実施団体を対象に調査を行ったものは少なく、加害者更生実施団体の活動状況やプログラム終了後の加害者へのかかわり、加害者更生の課題などについては十分に明らかにされているとは言い難いことがわかった。そこで、インタビュー調査を実施した結果、以下の4点が明らかになった。
1点目はDV加害者更生に参加するきっかけとして7~8割を占めていたのは、パートナーからの相談であるということである。DV加害者更生に夫が通う妻を対象に2018年に高井が行った調査結果では、被害者である妻からのプログラム参加を促された夫が多いことが報告されており、全ての被害者が離婚を望むわけではなく、中には加害者との関係を修復し、元通りの生活をしたいと考えている被害者も一定数いることが明らかになっている3)。しかし、2015年に内閣府男女共同参画局が行った被害者支援団体の支援者を対象とするヒアリング調査によれば、被害者支援団体の支援員からは加害者更生に対して懐疑的な見解が示されており、その理由としては、加害者を強制的にプログラムに参加させる法制度が整備されていないことや、諸外国の先行研究では、加害者更生の参加者の再犯率の高さや加害者更生の効果が不確定であること、また、離婚調停等の場において、加害者が面会交流や親権等に関する協議を有利に進めるために加害者更生の参加を免罪符として利用する危険性が拭えないことなどが挙げられていた4)。また、アメリカのカリフォルニア州では、家族法典(California Family Code)の第6200条から6409条がDVの防止にかかわる内容になっており、またDVに関する刑罰及び刑事手続については、カリフォルニア州刑法典(California Penal Code)で規定されている5)。これらにより裁判所は、DV加害者に対して加害者更生への参加を命令できる一方、日本ではそのような規定がないため、参加するかどうかは個人の判断に任されている。加害者本人がパートナーとの離婚を防ぐ目的などで自主的に参加するケースもあるが、相談してきた被害者の中には離婚せずに関係の修復によって問題を解決したいと考えている人もいることがわかった。
2点目は、自治体におけるDV相談窓口などの他団体との連携は団体による差が大きいことである。本研究の調査対象である3団体のうち2団体は、最低1回はDV加害者更生に行政職員が活動を見学する機会を設けて活動状況を報告していた。ただし、市のDV相談窓口担当者や被害者支援団体、警察などへ自らの団体の活動内容を紹介するなど、積極的に連携を図る団体がある一方で、そのような活動は特に行っていない団体もあった。
3点目は、加害者更生終了後も、多くの団体が加害者とかかわりを保ち、アフターケアを行っていることである。加害者更生の終了後には、調査対象者となった全ての団体で加害者に対して月に1、2回程度の来所を勧めており、プログラム終了後もつながりを保つようにしていた。
4点目は、加害者更生の提供主体はボランティアが大半を占めていることである。今回のインタビュー調査では、全ての団体においてファシリテーター1名でプログラムを実施しており、その他の業務をボランティアのメンバーが担っていた。そのため、今後は単にファシリテーターの人数を増やすだけではなく専門的知識を修得したファシリテーターの育成や、専門的知識の定期的な研修などを行うことで人材の育成が必要ではないかという意見が挙がっていた。
1 課題解決に向けた取り組み
本研究の目的は、日本におけるDV加害者更生の現状と課題を明らかにし、既存のプログラムにおける課題の解決や改善を目指すための新たな支援モデルを検討することであった。文献研究とインタビュー調査からDV加害者更生の主要な課題を明らかにしたが、調査した全ての団体でプログラムはファシリテーター1名で実施しており、その他の業務をボランティアのメンバーが担っている状況であった。調査を行った多くの団体が財政的に厳しく現状の活動の維持で精一杯であり、これらの課題の解決を現状のNPO法人に任せることは負担が大き過ぎると考える。すなわち、課題の解決にはDV加害者更生に関する専門性を有する人材不足の解消が必要である。
そのため、DV相談を受ける支援員が加害者更生を見学する機会やファシリテーターとの意見交換の場を設けることによって、加害者更生の目的や効果を認識できるようにすることが重要である。それにより、さまざまな機関から加害者更生を紹介してもらうことが可能になり、加害行為の深刻化や再発の防止にもつながる上、被害者と加害者の双方が離別を望まず、関係の修復を希望しているケースにも対応可能になるなど、多様な支援の提供ができるようになると考える。
2 新たな関係構築モデル
また本研究の調査結果からは、被害者であるパートナーからの説得や勧めで加害者が加害者更生に参加するケースが多いことも明らかになった。そのため、関係の修復を最終的な目標に定めて双方が協力して新しい生活の構築を行っていけるような支援の選択肢も必要であると考えられる。そこで構築したのが図1の「新たな関係構築モデル」である。
ただし、ここで注意すべきは全てのケースにおいて関係の修復を目指すのではなく、あくまでも選択肢の一つに過ぎないということである。例えば、関係修復が望めないほど加害者から受けた傷が深かったり、加害者がプログラムに参加しなかったりする場合などは、被害者が加害者と離別して新しい生活を始めるための支援を行う必要があるかもしれない。このように、あくまでも被害者と加害者の双方の合意を経た上で支援を展開していく必要がある。
この関係構築モデルで特筆すべき点は被害者が心身の回復を図りつつ、加害者は早い段階から加害者更生を受講することにより、その後の話し合いの場を設けられるようにする点である。加害者が実際に変化したのかを判断できるのは加害者と長い時間一緒にいた被害者なのではないかと考える。そのため、加害者更生の終了後に被害者と面談する機会を設け、加害者と被害者の関係でなく対等の関係であることを再確認して、関係修復か、互いに別々の新しい生活を構築していくのかを話し合いによって決定することができれば、再被害の防止につながる可能性がある。また、関係修復を経て生活を再建した後はプログラム受講前の状態に戻っていないか、その後の生活状況についても、プログラム実施団体や行政の相談窓口などに相談する機会を設け、必要に応じてプログラムの再教育や被害者の支援といった他団体との連携が必要になってくるためNPO法人だけでなく、市の相談窓口の相談員といった専門職が支援終了後も切れ目のない支援を行うことも必要であると考える。
本研究の限界として以下の2点が挙げられる。1つ目は調査対象の少なさである。今回、インタビュー調査を行うにあたり事前に調査協力の承諾を得ていた複数の調査対象者から、新型コロナウィルス感染症の影響によって研究開始後に調査協力を断られた。そのため、調査対象は3団体に限られている上、関係構築モデルの実際の適用には至っておらず、その効果については実証できていない。今後は、より多くの加害者更生実施団体や関係機関で調査を実施するとともに、関係構築モデルの効果について明らかにする必要があると考える。
2つ目は、加害者更生に参加する加害者への対応を中心に考察している点である。本研究では、加害者更生に参加しない加害者への対応については検討することができなかった。DV加害者を被害者から離別させ、そのままにしてしまうと元パートナーへのストーカー化や新たなパートナーへの暴力などにつながる可能性が考えられる。そのため、加害者更生に参加しない加害者への対応については今後も研究を重ねていく必要があると考える。
今回の調査研究の趣旨に賛同の上、インタビュー調査に御協力くださった3名の調査対象者の皆様に厚く御礼申し上げる。また本研究は科学研究費補助金(基盤C:課題番号19K02170)の助成を受けている。
本研究における利益相反はない。