新潟医療福祉学会誌
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特別講演サマリー:第22回新潟医療福祉学会学術集会 特別講演
院内救命士の誕生とチーム医療
田邉 晴山
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2023 年 22 巻 3 号 p. 125

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2021年、国は救急救命士法を改正し、救急医療機関内においても救急救命士の業務を可能とした。これまで救急救命士の業務の場所を医療機関に到着するまで、つまり病院前に制限していたことからの大きな転換である。その目的には、救急医療機関で働く医師・看護師の慢性的な過重労働の解消がある。厚生労働省は病院の勤務医の勤務時間について診療科別に公表しており、これによると救急科は脳神経外科や外科とならんで長時間労働となっている。一方、救急救命士については、その資格を有効に活用できていないいわゆる潜在救急救命士と呼ばれる者も増えていた。そのような背景の中、救急医療にかかわる医師のタスクシフトの対象として救急救命士に焦点があたり法改正につながったのである。

このように救急救命士は、医療機関内でも業務が可能となったが、それには看護師と異なるいくつかの制限がある。例えば、対象の制限(救急患者に対してのみ)、場所の制限(入院するまでの間。入院後は対象にならない。)、処置の制限(33項目の処置に限定)である。処置の制限をより具体的にみると、薬剤の投与経路については、救命士は静脈注射、筋肉注射の2種のみ、看護師はそれ以外にも経口投与の他、経肛門投与なども可能である。扱える医薬品の数についても、救命士は乳酸リンゲル液、アドレナリンなどの4種に限られているが、救命センターには70種類以上の薬剤がおかれその多くを看護師が使用可能である。

こられの違いの背景には、救急救命士の養成課程での教育がこれまで病院前での業務を前提としたものに限られていたからである。つまり、医療機関で働くための教育が必ずしも十分に行われていないのが現状である。不十分な教育は医療事故につながる。そのため、国は、救急救命士が医療機関で業務を行う際に医療安全、 感染対策、チーム医療に関する研修を行うことを義務付けている。研修で補えないところは、一定の間、他職種から支援が必要となるだろう。

このようにはじまったばかりの院内救命士に関していくつかの課題がある。しかしそれらは今後少しずつ改善され、院内により良いチーム医療体制が構築されるであろう。院内救命士の誕生は、ますます増大する救急医療需要への対応の一助につながるに違いない。

 
© 2023 新潟医療福祉学会

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