抄録
Pseudomonas cepacia リパーゼ(PCL)による1,2,3-プロパントリイル=トリブチラート(1)と脂肪族第二級アルコール(2)とのエステル交換を12種の有機溶媒と15種のアルコールを用いて30 °Cで検討した.四塩化炭素中で4-ノナノールが唯一反応が起こらなかった.エナンチオ選択性(E値)は基質構造[2の炭素数(CN)]によって変化し,2-,3-,4-アルカノールでそれぞれCN = 8,9,10で極小を示した.かさ高い溶媒を除いてlog Eは溶媒の疎水性(log P)とほぼ負の相関性を示したが,かさ高い溶媒中では他の溶媒に比べてlog Pから期待されるよりも低いE値であった.この相関性は基質構造によって変化することが認められた.ラセミ体中のエナンチオマーの初速度定数(k)を検討した結果,(S)体のk値は2-,3-,4-アルカノールでそれぞれCN = 8,9,10で極大を示した.かさ高い溶媒を除いてlog kはlog Pとほぼ正の相関性を示し,その傾きは(S)体の方が(R)体よりも大きかった.かさ高い溶媒中では他の溶媒に比べてlog Pから期待されるよりも高いk値を示した.以上の結果から,エステル交換のエナンチオ選択性は基質構造および溶媒の性質 · 構造の組合せに依存することが結論できた.また,溶媒が関与する活性サイトモデルを考え,それによる解釈も試みた.