日本化學會誌
Online ISSN : 2185-0909
Print ISSN : 0369-4208
鯛に關する榮養化學的研究(第三報)
鯛の雌雄と肉成分
波多腰 ヤス
著者情報
ジャーナル フリー

1933 年 54 巻 10 号 p. 982-990

詳細
抄録

1932年5月, 7月, 9月の三囘に亘り淡路近海にて漁獲した雌雄の鯛(5歳乃至10歳)肉を分析した結果を要約すれば次の通りである.
(1) 各季節を通じて雄鯛肉は雌鯛肉に比して水分を多く含み脂肪を少なく含む.而して雌雄肉共に産卵前には水分量最も少なく脂肪量最も多い.
(2) 無水肉中の成分に就て見れば蛋白,グリコーゲン,及び灰分は各季節を通じて雄肉は雌肉に比べて多いが脂肪は之に反して居る.又雌雄肉を通じて蛋白及び灰分は産卵後急に増加し後再び減少する.
(3) 各種鯛肉に於ける水100gに對する各成分量を算出した結果により産卵前(5月)のものと晩秋(10月)のものとは蛋白と脂肪の濃度が顯著に高いことを見出し以て此の二成分の濃度が鯛肉の食味に有力なる役割を荷ふことを明らかにした.
(4) 肉汁液のpaH價約6.5であつて汁液中の全窒素及びアミノ態窒素量は鯛の雌雄並に季節によつて著しい差異を見せなかつた.
(5) 鯛肉蛋白中の窒素の形態を測定した結果鯛肉蛋白組成の彷徨變異は性別に於けるよりも季節環境別に於て一層顯著であることを見出しこのことが鯛肉の食味をして性別よりも季節環境別に大なる相違あらしめる原因の一つになることを推論した.
終りにのぞみ終始御懇篤なる御指導を賜りし恩師近藤金助教授に對し謹みて感謝の意を表し同時に實験に際し多大の御助力を蒙りたる同實験室の山田孝雄氏及び森茂樹氏等に深謝し,尚ほ供試鯛に關し特別の便宜を與へられたる兵庫縣立水産試驗場長鴨脚七郎氏及び五十嵐技師等に對し謝意を表す.

著者関連情報

この記事は最新の被引用情報を取得できません。

© The Chemical Society of Japan
前の記事 次の記事
feedback
Top