日本化學會誌
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無極環状放電による化學的研究
水蒸氣の放電(第七報)
大原 英一
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1940 年 61 巻 6 号 p. 569-582

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抄録

無極環状放電を施した水蒸氣流を-183°Cのトラツプに通じると此所に固態の生成物を得る.此物は之を室温にまで温める際に,その一部分は分解して酸素を發生して,後に濃厚な過酸化水素の水溶液を殘すことに就ては既に第二報に於て報告した.此の分解反應に就て諸種の實驗を行ひ次の如き結果を得た.
1) 分解反應は約-61°Cを界として反應の速度及び活性化熱を異にする.此の温度はトラツプに於ける生成物の融解點であらうと思はれる.
2) 分解反應は生成物を-183°Cより漸次温むる時-115°Cより急に始まる.
3) 生成物の聚合状態を變へればその分解し始める温度は著しく變化する.
4) 生成條件を異にすれば分解し始める温度は異る.
5) 生成條件が一定なれば過酸化水素收量に對する分解酸素の割合は常に一定なるも生成條件を異にすれば變化する.
6) 分解の割合は加熱による温度上昇の遅速には無關係である.
7) この分解するものは温めれば必ず分解して酸素を放出する如き化合物である.低温に於ける水素原子と酸素分子との反應生成物に就いてのGeib, Harteck1)の云ふ様に,その時生じた不安定な過酸化水素が安定な異性體に變化する時に伴ふ分解現象とは考へられない.
8) 此の化合物の分解反應は均一一次反應であつて活性化熱は17kcalである.
9) 此の化合物はH2O4の如きものと推定する.

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