日本化學會誌
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澁黒温泉成因の化學的研究(第七報)
三浦 彦次郎
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1940 年 61 巻 7 号 p. 647-656

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抄録

(1) 澁黒湧泉中に含有せられる多量のCl′はH.と共存する事からその大部分は鹽化水素として岩漿より水蒸氣と共に發散し來れるものが上昇途中地下水と遭遇し鹽酸水溶液として湧出せるものなる事を考察した.而して鹽化水素は岩漿中に含有せられる鹽化物が加水分解を受け,更にCl2, O2, H2O等との平衡の結果として主としてHClとして噴出すべき事を考察し更に大沸湧泉に含有せられるHClが水蒸氣と共に噴出し來る場合水蒸氣に對し體積にて約1.3%に當ると推算せられる事を述べた.
(2) 澁黒温泉地帶噴出のCO2の成因として岩漿に含有せられる炭酸鹽が分解を受けCO2を生じそれがCO, C, H2O, HCl等との平衡の結果として主としてCO2として發生すべき事とHCl瓦斯が上昇の途中比較的低温なる處にて炭酸鹽に作用しCO2を生ぜしむるものもあるべき事とを考察した.
(3) 澁黒温泉地帶噴出のH2Sの成因として岩漿に含有せられる硫化物が分解を受けH2Sを生じそれがSO2, S2, H2O, H2, CO2, CO等との平衡の結果澁黒温泉地帶噴出瓦斯の如く主としてH2O, H2S, CO2として發生しSO2, CO, H2を含有せぬ爲には岩漿が高壓なれ共温度は比較的に高温ならざる事を考察した.尚HCl瓦斯が噴出の途中硫化物に作用して生成するH2Sき混入すべき事を考察した.
(4) 澁黒温泉地帶噴出瓦斯中のN2の成因として岩漿中に分解する事なくH2O, HCl, H2S, CO2と窒化物が共存し得るとは考へられない事であるから主として地下水に溶存し來るN2が加熱によつてN2瓦斯として發生するもので尚噴氣上昇の途中地下に混入せる外氣が噴氣孔壁より吸引せられ混入するものもあり得る事を考察した.
(5) 澁黒温泉地帶噴出瓦斯中のO2の成因として岩漿よりH2Sその他の還元性瓦斯とO2と共存發生するとは考へられない事であるから噴出或は湧出の途中比較的低温部にて地下水溶存のものか噴氣孔壁よりの吸引によつて外氣を混入せるに因ると考察した.而してかくして混入せるO2も湧泉中に鐵鹽を含有する時はH2Sと作用して次第に消耗せられ減少する.從つて空氣が混入してもN2/O2の値はO2の消耗せられるに從つて大となる.然るに空氣のN2/O2値よりも小にして地下水溶存と思はれるN2/O2値より大なるもののある事は地下水溶存のN2, O2の混入するもののあるべき事を考察した.

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