日本化學會誌
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澁黒温泉成因の化學的研究(第八報)
三浦 彦次郎
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1940 年 61 巻 8 号 p. 761-769

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抄録

(1) 澁黒温泉地帶湧泉中に含有せられる硫酸の成因として岩漿生成の地下より發生し來るH2O, CO2, H2Sが上昇の途中O2混入する時はS, SO2, H2SO4等を生成すべく更に熱水溶液中にてもH2S, 02, SO2, SよりH2SO4を生成すべく尚淺地下水が湧泉に滲透する際H2SO4を溶解し來るものもあり得べき事を述べた.之等諸生成根源中何れのものが主根源なるかは湧泉個々に就き各種條件を考慮に入れて考察せねばならぬ事を述べた.
(2) 澁黒温泉地帶の噴氣孔や湧泉中に見出される硫黄は他の硫黄化合物である硫化水素,硫酸等と關聯して硫黄蒸氣として或は水溶液中の沈澱硫黄として生成する.
(3) 澁黒湧泉中の珪酸は湧泉が岩石を溶解し珪酸を溶存する事實から地下深部より液相として來たものではなく地下水が地下深部より來る發散蒸氣の爲加熱せられ鹽酸酸性泉として湧出する途中にて溶解せるものが主なるもので尚淺地下水の混入によつて溶存するに至るものもあり得るものと考察した.
(4) 澁黒湧泉中のアルミニウム,鐵,カルシウム,マグネシウム等の成因は珪酸と同樣に考へられる.
(5) 澁黒温泉地帶湧泉は酸性泉のみにて之等は噴出或は生成せられる鹽化水素,硫酸によつて酸性となるものである.然し熊澤蒸湯温泉その他にて見出されたアルカリ性泉は地下より酸性泉として上昇し來れるものが接触共存する岩石,土壌の性質,接触時間の長短,噴出瓦斯成分の性質等の關係によつてアルカリ性泉に變化し湧出せるものと考察した.
(6) 澁黒温泉地帶の活動の中心を燒山と考へると噴出瓦斯成分,湧泉成分,温度に就きてはDeville説の如き關係は認められないが大沸及びその下流に於ける湧泉成分に關してはDeville説と一致する樣に見える.
(7) 大沸湧泉は地下岩漿より發散し來る瓦斯の力が地下水としての湧出力に相加はつて噴湯湧出するもので大沸下流方面のものは主として地下水としての湧出力によるもので大沸上流方面のプールをなして噴湯してゐるものは水蒸氣の凝縮せるものと淺地下水の透入し來れるものとが瓦斯及び水蒸氣の上昇力によつて噴湯湧出するものと考察した.
(8) 澁黒温泉地帶湧泉及び噴氣によつて運ばれる熱量は甚だ莫大なるものにして之等は主として岩漿發散の揮發成分によつて岩漿から地表に運ばれた岩漿根源熱によるものと考察した.

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